[背景・目的] 小児期に病気を発症し AYA世代(思春期若年成人)を迎えた患者は、進学・就労・結婚・出産・育児などのライフイベントに際し、社会生活をおくるうえで課題を持つとされる。しかし、病気を持つことは患者の心身・活動にどのような影響を及ぼし、課題となるのか、具体的なプロセスは明らかでない。本研究では、そのプロセスを帰納的に導出することを目的とした。 [研究デザイン・方法] グラウンデッド・セオリー・アプローチ法を用い、インタビュー調査でのデータ収集・分析による質的帰納的研究を行った。本研究では、20歳までに小児慢性特定疾患に罹患した15歳から39歳までのAYA世代で、現在も治療中あるいは経過観察中である者、もしくは後遺症や晩期合併症等で生活上の制限をもつ方を対象とした。 [結果] 国内の患者会および研究協力者からの協力により、広く研究参加者の募集をおこない、調査期間を通して4名のAYA世代患者の協力を得た。新型コロナウイルス感染症による社会活動制限の影響を強く受け、協力依頼の機会が当初の想定を大幅に下回った。調査の結果、【価値観の揺らぎ】という概念に代表され、関連する9つの概念から構成される現象を把握した。これは、小児期から成長発達の中で構築されてきたアイデンティティが、自分自身の特徴の1つである疾患の特性によりゆらぎ、患者自身に対する価値観に影響を与えるという現象であり、社会生活上の課題が生じる1つの背景であると考えられる。本研究では【価値観の揺らぎ】という現象を把握したものの、慢性疾患が持つ特性はさらに様々であり、一般化するには他のプロセスを今後も把握する必要がある。加えて、【価値観の揺らぎ】以外の現象に関わると考えられる概念も抽出できており、本研究で明らかとなった結果とともに、把握できなかった現象やプロセスについては研究の限界として報告する。
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