昨年度までに、合成カンナビノイドの1種であるCUMYL-THPINACAについて代謝経路を作成し、摂取の指標となりうる代謝物について構造決定を行う方針を立てた。その代謝物は構造内のクミル基(内部のベンゼン環)のある部位に代謝を受けており、予想される構造としてオルト体、メタ体、パラ体の3種類が挙げられた。 今年度はその代謝物の構造決定を行うことを目標とした。代謝物の構造を特定するためには、存在しうる全ての位置異性体を構造情報を担保した「標準品」として用意する必要がある。標準品はそれぞれの位置異性体に特有の合成試薬を用いることでオルト体、メタ体、パラ体を区別し作製することができた。作製した標準品は、精密質量が測定できるLC-QTOF/MSと、分子内の炭素と水素の位置がわかるNMRを用いることで、目的の化合物と相違ないことを確認した。 次にそれら3種の位置異性体標準品をLC-QTOF/MSを用いて分析し、各異性体をピーク分離可能な分析法を開発した。その分析法を用いて、位置異性体標準品とCUMYL-THPINACAをヒト肝ミクロソームで代謝させた反応液とを分析した。その結果、標準品とピーク出現時間が同等な化合物が3種類検出された。最初に現れた代謝物1はパラ体の標準品とMS/MSスペクトルが一致した。次に現れた代謝物2及び3はどの標準品ともMS/MSスペクトルが一致しなく、クミル基とは別の部位に代謝を受けた構造と推定された。上記よりクミル基が代謝された代謝物の構造はパラ位に代謝を受けたことが明らかとなった。さらに、構造決定した代謝物の薬理活性評価を行った。方法は精神活性に関わるカンナビノイド(CB1)受容体に対してin vitro受容体機能評価試験を用いた。その結果評価した代謝物についても親化合物同様薬理活性が確認された。
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