個人の自己決定権を重視してACPが発達した欧米諸国とは、患者・家族の和を重んじる日本人特有の価値観や家族関係は異なる。さらに日本の医療制度や法律制度、世界に類を見ない急速な人口の高齢化などの社会背景も全く異なる。したがって、悪性脳腫瘍患者が最期までその人らしく生きることを支えるACP看護支援モデルを検討し、導入するには、日本の文化、社会背景、医療システムを考慮する必要がある。日本におけるACPの定義および推奨しうる在り方を明らかにするために、まずは、日本のACP文献を対象としたnarrative synthesisを用いたシステマティックレビュー(SR)を行った。これにより、日本人の文化的価値観や規範に基づいた ACP の定義と独自の提言を明らかにした。「家族を含めた上で患者中心のアプローチをすること」、「最終的に患者の意向が尊重されるよう、ACPの社会的認知度を高め法律を制定し曖昧さを回避すること」が日本におけるACPの推奨事項として明らかになった。本SRの成果は、英文国際雑誌に掲載された(Asia-Pacific J Oncol Nurs. 2021;8(6):628-641.)。 次に、原発性悪性脳腫瘍患者の意思決定を支援する医療専門職によるACPの実態および課題を明らかにするために、半構造化面接調査を実施した。現在、データ分析中であるが、本研究協力者より、原発性悪性脳腫瘍患者のACPにおいて、患者の意思決定能力低下に備え、できる限り早期から家族からも情報収集し患者の大切にしていることや価値観の把握に努めると同時に、特に看護師は介護負担の多い家族への支援も重視している状況が語られた。また、主な課題として、失語症状のある患者へのアプローチおよび多職種連携の困難について語られた。引き続き、本調査のデータを丁寧に分析し、可能な限り早期の英文国際雑誌への投稿を目指している。
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