糖尿病、脂質異常症などは循環器疾患の重要なリスクファクターであり、予防の重要な対象となっている。これらのリスクファクターについて、生活習慣、遺伝的素因の研究が数多くなされているが、環境要因からの研究は限られている。本研究では、化学環境要因、特に近年、世界的に汚染が広がっている有機フッ素化合物などの内分泌かく乱化学物質の影響を疫学的に研究する。ドック検診などの対象者の血清検体から対象の化学物質曝露を評価する。測定には所属研究室で開発されたガスクロマトグラフィー質量分析法を利用する。 2020年度において、血清検体の分析法のセットアップを行った。ガスクロマトグラフィー質量分析で、曝露要因として有機フッ素化合物を測定すると同時に、脂肪酸組成の同定を行うための分析法を開発した。結合型脂肪酸を遊離させるための酸、アルカリ処理に対して、有機フッ素化合物は安定であり、続いて、ペンタフルオロベンジルブロミドによる誘導体化を使用した。この際、強極性のシアノプロピルキャピラリーカラムで脂肪酸構造異性体を分離して測定できた。2021年度において、上記、方法により血清検体の分析を開始した。新型コロナウイルス感染症の影響により、分析の進捗に遅れが生じているが、先行的にデータ解析を実施し、有機フッ素化合物曝露と血中脂肪酸組成との関連を検討した。重回帰分析ではPFHpA、PFOA、PFNAなどはステアリン酸、オレイン酸、リノール酸濃度と正の関連を示した。2022年度はPFAS汚染度が高い沖縄県中部地域の医療機関との共同で生活習慣病患者の血中PFAS濃度の分析を実施し、臨床的アウトカムの収集を行い、統計解析の準備を行った。2023年度において、追加の検査を実施した上で、2022年度の解析結果をまとめ、論文投稿を行った。
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