研究課題/領域番号 |
20K23233
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研究機関 | 京都府立医科大学 |
研究代表者 |
谷口 恵香 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70882942)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | GGCT / がん予防 / RB / c-Met / γ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ |
研究実績の概要 |
本研究は、γ-グルタミルシクロトランスフェラーゼ (GGCT) 発現抑制による『がん抑制遺伝子RB』の活性化機構を明らかにし、実践的がん予防法の確立に繋がる知見を得ることを目的とする。 我々は、GGCT発現抑制がc-Metシグナル伝達系の抑制を介してRB活性化を引き起こすという仮説を立てた。siRNAを用いた複数のがん細胞株に対するGGCTノックダウンは、mRNAおよびタンパク質レベルでc-Metの発現を低下させた。反対に、GGCTを強制発現させたNIH3T3細胞においてはc-Metが発現上昇していたため、GGCTはc-Metの発現促進因子であることが判明した。 次に、c-Metの強制発現によって、GGCTノックダウンで引き起こされたRB活性化、およびその上流の調節機構であるMEK-ERK経路の抑制が解除されることを明らかにした。さらに、GGCTノックダウンによるがん細胞増殖阻害効果が、c-Metの強制発現によって回復することを示した。したがって、GGCTノックダウンによるこれらの効果は、c-Metの発現低下に依存していることを実証した。 GGCTのノックダウンがAMPKαを活性化することを以前に報告している。siRNAを用いたAMPKαのノックダウンは、GGCT発現抑制によるc-Met発現低下をタンパク質レベルで回復したため、GGCTノックダウンによるc-Met発現低下はAMPKαに依存するということが判明した。 以上の結果より、GGCTの発現抑制はAMPKαの活性化を介してc-Met発現を低下させ、その下流のMEK-ERK経路の不活性化を引き起こし、RBを活性化するという可能性が示唆された。本研究は、がん予防に重要な役割を果たす『がん抑制遺伝子RB』を活性化する標的分子GGCTを見出し、その活性化機構を明らかにした初めての研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GGCTのノックダウンおよび強制発現によって、GGCTがc-Metの発現促進因子であることを新規に見出した。さらに、がん細胞株に対するc-Metの強制発現によって、GGCT発現抑制によるRB活性化、MEK-ERK経路の抑制、がん細胞増殖阻害効果が回復したため、本研究の根幹をなす「GGCT発現抑制がc-Metシグナル伝達系の抑制を介してRB再活性化を引き起こす」という仮説を実証することができた。さらにGGCTノックダウンによるc-Metの発現低下機構として、AMPKαが関与している可能性も見出した。当初の計画では、HIF-1α強制発現実験を行うことにより、GGCTノックダウンによるc-Met発現低下に対してHIF-1αの果たす役割について調査する予定だったが、がん細胞を低酸素状態で培養することによりHIF-1αを活性化するという手法に切り替えることとした。この実験のための低酸素チャンバーは利用可能な状態である。以上の理由により、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
がん細胞を低酸素状態で培養することによりHIF-1αを活性化し、GGCT発現抑制によるc-Met発現低下および下流シグナル伝達系の抑制が回復するかどうかをWestern blot法で確認する。そこで得られた結果をまとめ、学術誌へ投稿する。さらに本研究は、GGCTの代謝酵素としての役割にも焦点を当てる。我々は既に、GGCTが転写因子HIF-1αの発現促進を介してがん細胞の好気性解糖を促進していることを報告しており、GGCTノックダウンによって引き起こされるがん細胞の代謝経路の変化を経時的かつより詳細に解明すべく、細胞外フラックスアナライザーを用いた解析を計画している。ただし、使用予定の細胞外フラックスアナライザーは外部機関の共用研究機器であるため、新型コロナウイルス感染症の流行状況を十分に考慮した上で今後の実施を検討していく。
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