視神経は、網膜神経節細胞(Retinal Ganglion Cells; RGCs)の軸索であり、視覚中枢(中脳上丘)ニューロンに軸索投射する。網膜-視覚中枢投射には、Retinotopy (Retinotopic map)という3次元的な視覚情報を伝達するための形態学的な基盤が存在する。耳側のRGCsは中脳上丘の前方へ軸索投射し、鼻側のRGCsは後方へ投射する。この1対1の神経線維連絡であるRetinotopyの空間的配列の形成は、高度な視覚機能伝達に大きく寄与している。視覚回路損傷後のRetinotopyの再建は、1対1のシナプス結合に立脚した中枢神経機能を再獲得するために必要不可欠である。 本研究は、①視神経切断後の網膜、中脳上丘におけるRetinotopyの変性・消失についての分子的背景を、形態学的な情報とともに明らかにすること。②末梢神経移植による視神経再建によって、Retinotopyを決める分子群EphA5とephrinA2が、どのように発現変化するのかを明らかにすること。以上2つを研究目的としている。 成獣Wistar ratの視神経を麻酔下で切断し「退行性変性モデル」を作成した。手術後30日経過した後、中脳を摘出した。視覚中枢である上丘部分を矢状面で薄切した。市販のEphA5ポリクローナル抗体、ephrinA2モノクローナル抗体を用いて、中脳に免疫組織化学染色法(2重染色)を施した。中脳上丘標本では前後軸の両分子の濃度分布を調べた。 その結果、同側と対側の上丘におけるEphA5とephrinA2の発現量は、どちらも対向的な濃度勾配を呈しており、同側よりも対側の方が、発現量が高い傾向が認められた。この変化は軸索誘導を誘発するものなのか、視神経切断に起因するものなのかは、今後の検討課題である。
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