歩行安定性向上を目的とした歩行練習において,従来の定速歩行を中心としたものに変わる,変速歩行を中止とした新たなプログラムの開発を目的とした研究を実施した.具体的には,我々が開発した変速トレッドミル装置を用いて,歩行中の速度を任意に変化させる歩行速度調整課題を対象者に課し,その際の体幹加速度を計測し,そのデータから1)歩行速度調整課題と歩行安定性の関係性を明らかにすること,2)明らかになった知見を統合し,高齢者の歩行安定性を向上させる効率的な歩行速度調整プログラムの開発をすること,以上の2点を主要な目的として研究を実施した. 2022年度は,依然として新型コロナウィルスの影響が強く,地域在住高齢者を研究施設へ招き,歩行運動課題を課す実験が困難であった.また歩行運動課題で用いる予定であった変速トレッドミル装置について,モーターから発生するノイズが計測結果に影響を及ぼす可能性が生じ,その修理対応に半年以上の期間を要することが明らかとなった.そのため対象者を高齢者から若年健常者へ,歩行運動課題をトレッドミル歩行から屋内平地歩行に切り替えたた.そのうえで速度調整課題が歩行安定性に与える影響について,アウトカムをTUG(Timed Up and Go test)に設定して検証を進めた.その結果,我々が設定した歩行速度調整課題は 健常成人の歩行安定性を即時的に増大させる効果があることが明らかとなった.2022年度はこの研究成果をまとめて学術論文の執筆を行った.この学術論文は国際雑誌(英文)へ投稿し,2023年4月に掲載された.また,認知負荷を伴う速度調整課題が注意需要と歩行パターンに及ぼす影響や,能動的な歩行速度調整に関わる運動学的要因について,学会発表を行った.
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