骨格筋の可塑性を制御する骨格筋幹細胞は生体内で唯一骨格筋線維を再生できる幹細胞であることからサルコペニアや筋ジストロフィーなどの筋疾患への細胞治療が高く期待されている。しかし移植効率の低さから治療効果は現在までのところ得られていないのが現状である。本研究では、移植効率向上を目指し、骨格筋幹細胞ニッシェ(微小環境)に着目し、幹細胞性維持に関わる分子基盤を同定することを目的とした。本研究において、骨格筋幹細胞の休止期で強く発現する因子のうち、骨格筋幹細胞と外部環境とをつなぐ因子として、GPR116に着目した。骨格筋幹細胞特異的GPR116欠損マウス解析の結果、GPR116は骨格筋幹細胞の休止期維持及び長期的な骨格筋幹細胞数の維持で重要であることを見出した。さらに、その下流因子を同定し、新たな骨格筋幹細胞ニッシェの重要な因子として報告した。また、昨年度から引き続き実施している骨格筋幹細胞の活性化状態を蛍光強度により見分けることができるマウスツールの開発により、当該年度ではソーティングによって異なる活性化状態にある骨格筋幹細胞状態を単離し、シングルセル解析を実施した。その結果、骨格筋幹細胞のそれぞれの活性化状態によって、骨格筋幹細胞ニッシェの維持に重要と考えられている複数の遺伝子発現プロファイルを取得することに成功した。今後はこのデータを活かして、骨格筋幹細胞が自分自身の活性化状態により有利なニッシェを作り出す分子機構を同定する基盤となると考えられる。
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