研究課題/領域番号 |
20K23289
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
内田 晃司 信州大学, 医学部, 助教(特定雇用) (10876973)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 脳血流 / NIRS / 認知機能 / 最大酸素摂取量 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
我々は、軽度認知障害の高齢者において、最高酸素摂取量の向上により、浦上式認知機能スクリーニングテストにより測定した認知機能が向上することを発見した。しかし、測定機器と要する検査時間のため、多くの被験者を対象に認知機能をスクリーニングするには不便であった。さらに、我々は、若年者において最高酸素摂取量が高いほど、カウントダウンによる自発性運動開始前の中大脳動脈血流の増加が亢進し、これが心拍数の上昇、筋血管の拡張をひき起こすことを発見した。これは、運動に先立って、大脳皮質運動野が興奮し、間もなく運動状態に入ることを「認知」し、循環中枢に働きかけ、スムーズに運動を開始させる、いわば予測制御反応であることを示唆する。 また、我々は、高齢者においても、最高酸素摂取量に比例して同様の反応が起きることを確認した。すなわち、カウントダウンによる自発運動開始時の中大脳動脈血管血流を測定すれば、わざわざ、浦上式の認知機能スクリーニングテストで検査しなくても、認知機能が短時間で測定できる可能性がある。しかし、中大脳動脈血流量を測定するための超音波血流計は高価で、その測定手技も熟練を必要とする。したがって、多くの被験者を対象に認知機能をスクリーニングするのは不可能に近い。 ところが、申請者は若年者の低酸素暴露時に超音波血流計で測定した中大脳動脈血流量変化と、前頭葉の血流量変化を反映するといわれる前額部に装着した近赤外プローブの信号変化(全ヘモグロビン量と酸素飽和度の変化)が相関することを発見した。近赤外線プローブは超音波ドップラー計の1/10の費用で、測定手技も極めて簡単である。 そこで、このポータブル型NIRSプローブによる前額部信号が、正常酸素環境で自発運動開始時の脳血流変化を反映するか否かを検証することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度の実績としては、ポータブルNIRSが、正常酸素濃度環境における脳血流変化を反映するか否かを検証する目的で、3名の中高年者を対象に、実験室において自転車エルゴメータを用いた自発運動開始前にカウントダウンを行い、その際の前額部の全ヘモグロビン量の変化をポータブル型と従来の据え置き型のNIRSで測定した。さらに、その際の信号変化が超音波ドップラー法で測定した中大脳動脈の血流変化を反映するか否かを検証した。その結果、ポータブル型と据え置き型の信号変化がほぼ一致することを確認できたが、それらの変化が、超音波ドップラーで測定した中大脳動脈血流量変化を反映するか否かについては、コロナ禍の影響で、本来計画していた被験者数が得られなかったために、十分な検証をできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては、 (1)ポータブルNIRS信号の信頼性の継続検証: 2020年度に引き続き、より多くの中高年者を対象に、実験室内で、自発運動開始前にカウントダウンを行い、その際の前額部のNIRS信号変化をポータブルと据え置き型で測定し両者を比較する。さらに、その際の中大脳動脈の血流変化を超音波ドップラー血流計で測定し、NIRSの信号変化との比較を行う。(2)認知機能評価への応用:(1)の実験室実験結果で、ポータブルNIRSプローブの信号が、自発運動開始時の中大脳動脈血流変化を反映する結果が得られれば、より多くの中高年者を対象に、フィールドで、自発的歩行開始時にポータブルNIRSで前額部信号変化を測定し、その測定値と、別途、測定した認知機能の検査結果と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、コロナ禍で少人数の被験者で実験室実験に限られたため、本来フィールド実験で使用を計画していたポータブル型のNIRSプローブの購入を差し控えた。2021年度は可能な限り実験室実験を追加しその結果に基づいてフィールド研究を行うので、そのための被験者謝礼費、プローブ購入費として助成金を使用する予定である。
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