我々は、軽度認知障害の高齢者において、最高酸素摂取量の向上により、浦上式認知機能スクリーニングテストにより測定した認知機能が向上することを発見した。しかし、測定機器と要する検査時間のため、多くの被験者を対象に認知機能をスクリーニングするには不便であった。さらに、我々は、最高酸素摂取量が高い被験者ほど、カウントダウンによる自発性運動開始前の中大脳動脈血流の増加が亢進し、これが心拍数の上昇、筋血管の拡張をひき起こすことを発見した。これは、運動に先立って、大脳皮質運動野が興奮し、間もなく運動状態に入ることを「認知」し、循環中枢に働きかけ、スムーズに運動を開始させる、いわば予測制御反応であることを示唆する。すなわち、カウントダウンによる自発運動開始時の中大脳動脈血管血流を測定すれば、わざわざ、浦上式の認知機能スクリーニングテストで検査しなくても、認知機能が短時間で測定できる可能性がある。 上記目的を達成するため、我々は前年度までの測定で、若年者・高齢者を対象としてポータブルNIRSと従来型NIRSの同時測定を行い、精度がおおむね一致することを確認した。 今年度はポータブルNIRSと脳血流の同時測定を若者・高齢者で行い、若年者では自発運動時に脳血流上昇、それに続く脳組織の酸素飽和度の上昇が観察された。また、その上昇度合いは高齢者においてやや抑制される傾向にあることが確認された。 上記の測定はエルゴメーターを使用した実験室内実験であったが、今後のフィールド実験への応用の際、屋外で実施可能な歩行運動でのセットアップが必要であった。そのため屋外で使用可能なポータブルNIRSおよびワイヤレスオーディオシステムを購入し、屋外・歩行実験で同様の測定をできる環境のセットアップを完了した。
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