背景:摂食嚥下において,食物を食道へ移送するために咽頭収縮の機能が重要である.前舌保持嚥下(THS)は咽頭収縮において咽頭後壁の前方運動を強化する訓練法で臨床で多用されているが,その効果は十分に理解されていない.この背景には従来の嚥下造影検査は透視像であるために咽頭後壁の隆起量を定量評価が困難であったためである.本研究は320列面検出器型CTに舌表面の輪郭描出手法を用いて,THSによる咽頭後壁への効果を定量的に検討すること,またTHS時の挺舌長による効果の違いを検討することを目的として行った. 方法:健常被験者13名(男性6名,年齢23-43歳)に対して行った.挺舌割合1/3と2/3のTHS(THS1/3,THS2/3)と唾液嚥下(SS)の3施行を320列面検出器型CTにて撮影した.撮影後,MPR像,3D-CT像を作成し,咽頭後壁隆起量(PPW)と咽頭腔体積を計測した. 結果: PPWは嚥下前では3施行間に有意差を認めなかった.嚥下中ではSSに比べTHS1/3で有意に増加し(p=0.04),THS2/3は唾液嚥下に比べ増加する傾向を認めた.咽頭腔体積は嚥下前ではSS,THS1/3に比べTHS2/3で有意に増加した.2名の被験者で,嚥下中のPPWが SSに比べTHS1/3,THS2/3ともに小さい例を認めたが,2名とも咽頭腔体積は3施行全てで完全に縮小していた. 考察:PPWは嚥下前には3試行間で有意差を認めなかったが,嚥下中はSSに比べTHS1/3で有意に増加(p=0.04),THS2/3で増加する傾向を認めた.嚥下前の咽頭腔体積は挺舌長に伴って拡大したが,嚥下中はほぼ全例で咽頭腔は完全に縮小した.これは挺舌によって拡大した咽頭腔を縮小させるために咽頭後壁の運動が増加した結果であると考えられた.つまり,THSは嚥下中の咽頭後壁の隆起量を増加させる効果がある可能性が示唆された.
|