現在までに中高齢者や肥満者における有酸素性トレーニングにより血中adropin濃度が増大し、その増大は動脈硬化度の低下や血管拡張物質である一酸化窒素(NO)の血中濃度の増大と関連があることを明らかにした。さらに、動物実験において、有酸素性トレーニングによる血中adropin濃度の増大は動脈血管のadropin遺伝子発現の分泌が影響を及ぼしている可能性やadropinによる血管内皮機能の改善はNO依存的であることを明らかにした。しかしながら、現在までの検討は中心動脈の検討であり、心筋梗塞のリスクが高くなる閉塞性動脈硬化症に対しては大腿動脈における血管内皮機能の低下や血管内腔の閉塞(脂肪沈着)に対する運動効果・分子機序についての検討も必要である。そこで本研究では、adropinが大腿動脈血管に及ぼす生理学的影響の解明を目的とした。 今年度は、adropin遺伝子欠損マウスおよびadropinを慢性投与した肥満や糖尿病を誘発するdb/dbマウス(db/db群)を対象に実施した。さらに、薬理学的なミオグラフ法を用いて、腸間膜動脈の血管内皮機能を評価した。その結果、adropin遺伝子欠損により腸間膜動脈血管の内皮機能は有意に低下していた。一方で、db/db群にadropinを慢性投与させた結果、腸間膜動脈の血管内皮機能が増加していた。 したがって、本研究の結果から、生体内のadropinは動脈硬化に関係しており、肥満や糖尿病による動脈硬化度の増大をadropinが減弱することから、新たな治療目的となる可能性が示唆された。
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