本研究では、バレエにおける運動の個人差が鑑賞者にどう評価されるのかを解明することによって、運動の個人差の意義を実証することを目的に、初年度に3次元動作分析装置による運動分析を、次年度に実施した評定尺度法による印象分析を行い、最終年度に運動の個人差が最大となる時の関節角度と鑑賞者が感受する印象との関係性を分析した。 3次元動作分析装置による運動分析では、女性プロバレエダンサー12名(以下、演技者)を対象に、全身に48個の反射マーカーを貼付し、下肢挙上を伴うバランス保持動作を3試行実施させ、その様子を光学式カメラ8台(250 Hz)と、前額面方向からデジタルビデオカメラ1台(60 Hz)にて撮影した。計測した3次元座標データからPlug-in Gait full body modelにより、身体各部位の関節角度を取得した後、演技者間の動作変動度(rmsCV)を算出し、その最大値を比較することで、下肢挙上を伴うバランス保持動作の個人差を反映する関節角度を同定した。次に、50名のバレエ経験者(以下、評価者)を対象に、運動分析時に撮影した演技者12名の動画から感受される印象を、運動の出来栄えに関する印象(例えば「美しい-醜い」、「良い-悪い」)と運動の特色に関する印象(例えば「滑らかな-平坦な」、「重い-軽い」)からなる23対の形容詞対を用いて調査した。得られた各評定値は、動画ごとに平均し、事前に同定した個人差を反映する関節角度の動作変動度が最大となる時点の値と相関分析した。 その結果、 バレエにおける下肢挙上を伴うバランス保持動作では、動作変動度が最大となる時点の演技者の関節角度によって、評価者の「好み」や運動の特色に関する印象が異なることが示された。これは、バレエにおける運動の個人差に、鑑賞者が感受するパフォーマンスの質に差を生じさせる意義があることを示唆するものと考えられる。
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