われわれの脳は入ってきた感覚信号に脳内の内部モデルを対応づけて,もっともらしい外界を予測・推定しているとされる.この感覚情報と内部モデルの対応付け,統合処理がどのように行われているかについては不明な部分が多い.本研究では,マウスの知覚・意思決定プロセスにおいて,感覚情報と報酬の事前知識との統合が脳内でどのように行われているかについて神経動態の解明を目指した. マウスには頭部拘束下で教示音の高低に応じて左右のスパウトを舐め分けさせるfrequency-discrimination taskを課した.左右のスパウトの報酬量に差を設けて報酬バイアスがマウスの選択に与える影響を観察した.さらに教示音に長短のパターンを織り混ぜることで教示音の弁別難易度を操作した.結果として,マウスは自分の選択に自信があるときは得られる報酬量に関わらず正しい解答をし,自信がなければ報酬量が多く設定された選択肢に偏った.これは,(1)自分の選択の正解確信度と(2)報酬量の多寡とを総合して報酬の期待値が大きい選択肢を選ぶ戦略をマウスがとっており、マウス脳内では、感覚情報と報酬の事前知識との統合が行われている証左と考えられる. 次に,タスク中のマウスの聴覚野,頭頂連合野,2次運動野,前頭前野(mPFC)の神経活動を電気生理的に計測した.結果として聴覚野は感覚情報を、前頭前野は報酬の事前知識を、2次運動野がマウス自身の選択をコードしていることが示唆された.事前知識と感覚情報の統合領域と予想していた頭頂連合野では手技に不足があったためかうまくデータを収集できず,統合処理については不明なまま終わった.今後は,頭頂連合野での計測ができるように手技を詰めていくとともに聴覚野や前頭前野を抑制した場合とそうでない場合の頭頂連合野の神経活動を精査することで,脳内での感覚情報と報酬の事前知識の統合処理の神経動態の解明を目指す.
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