研究課題/領域番号 |
20K23346
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
小村 啓 九州工業大学, 大学院工学研究院, 助教 (00881096)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | Gestalt / プレグナンツの法則 / 触錯覚現象 / ベルベットハンドイリュージョン / 定式化 |
研究実績の概要 |
触り心地が生起する触錯覚現象の一つであるVHI(Velvet Hand Illusion)の機序を解明することを目標として研究を行った.VHIとは,2本の平行に張られたワイヤを両手で挟んでこすると滑らかな面の感覚が生起する錯覚現象である. 2本線の往復運動の位相がずれると,それに伴って錯覚強度も変化することが実験で明らかになった.この位相が錯覚に及ぼす影響をGestaltのプレグナンツの法則を拡張して説明することを試みた.Gestaltとは「部分では説明できない複合的なまとまり」とされ,視覚認識で考えられた概念である.視覚のGestaltにおいてパーツのまとまりがデザインとして認識され,触覚のGestaltには触り心地が生起すると我々は考える.プレグナンツの法則とは,まとまりやすさを法則化したものであり,例えば,共通運命の要因とは同方向に動くものをまとまりとして認識されやすい傾向を示す.我々は2本線が逆位相で往復運動した時の伸縮の動き,及び同位相で運動した際の平行移動の動きにおいてそれぞれまとまりの効果が強く表れることを突き止め,それぞれ伸縮の要因,平行移動の要因と名付けて定式化に用いた.定式化では,錯覚の強さを 線で囲まれる面積とプレグナンツの法則に基づくまとまりやすさに関連すると定義し,位相と錯覚の強さの関係を説明可能なモデルを作成することに成功した. この錯覚を触覚ディスプレイに応用することを目標として,点図ディスプレイでVHIが生起することの証明を近赤外分光法(NIRS)を用いた脳機能計測で試みた.過去のfMRIを用いた調査でVHIの強弱に応じて左体性感覚野の賦活が変化することが明らかにされており,この反応が確認できるか否かを調査した.調査の結果,ワイヤ刺激では確認できたが点図ディスプレイでは確認できなかった.今後はこの原因についてもさらなる調査を実施する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下の計画が予定より遅れている. 実験装置の開発は完了したが、その装置を用いた心理物理学実験をまだ完了できていないため本年度実施する予定である.また昨年度実施した脳機能計測の結果が我々の予想と異なる結果となったため,その原因調査を本年度実施する.昨年度にすでに実施した心理物理学実験の研究成果に関してはこれから論文にする予定である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,昨年度に開発した温冷刺激が可能な触覚ディスプレイを使用して心理物理学実験を実施し,錯覚に温度の効果を重畳するとどのような触り心地の認識となるのかを明らかにする.またすでに実施した脳機能計測では我々の予測とは異なる結果が得られた.具体的には主観的には点図ディスプレイでVHIを感じることが出来るが,脳の反応としては確認できていない.この原因を突き止める調査を本年度実施したいと考えている.またこれらの研究成果を論文にまとめジャーナルに投稿したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は下記の通りである. 昨年度の脳機能計測において我々の予想とは異なる結果が得られた.具体的には,開発した触覚ディスプレイを用いると主観的には錯覚を知覚できるのだが,脳機能として錯覚特有の反応を確認することが出来なかった.これは,錯覚が非常に弱いためなのか,機序が異なるためなのか原因が未解明であるため,実験条件を整理してもう一度調査を行おうと考えている.また開発した触覚ディスプレイを用いた心理物理学実験に関しても実施中であるため本年度も引き続き実施する.また,これまで実施した実験のデータを論文にまとめてジャーナルに投稿したいと考えている.以上の理由から次年度使用額が生じた.
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