本研究の目的は、深層学習が大量のデータや学習時間を要するため困難であった、人に高速かつ高精度に適応する機械学習の枠組みを確立することである。本研究は機械学習研究とインタラクション研究の両方に位置付けられる。 前年度進展があった、未学習データの検出技術や、他者モデルが有効となるインタラクションデザインに関する研究を踏まえて、実際に他者モデル技術の実装を進め、2つの観点で応用・評価した。 1つは、シャーデンフロイデと呼ばれる人の不幸を喜ぶ情動を扱った。シャーデンフロイデの認知モデルを、我々が開発した他者モデルを中心とした認知アーキテクチャによって構築することができると考え、シャーデンフロイデを有する種と有さない種でそれぞれ学習課題を行った。結果シャーデンフロイデを有する種は有さない種に比べて協調的な振る舞いをする傾向にあった。これは、いわゆる「独り占め」が起こった際に、独り占めしたエージェントが他者からの嫌がらせを受けるため、それを避けるために独り占めが起こりにくくなり、結果協調的な振る舞いになったためではないかと考えられる。 もう1つは、開発した典型他者モデルを活用して、繰り返し囚人のジレンマと呼ばれるタスクを行い、他者の性格に合わせた振る舞いができるかを検討した。簡単に作り込まれた3つの性格に適応できることまでを確認しており、今後より発展的な条件へと展開していく予定である。さらに典型他者モデルの切り替えは、前年度に進展のあった未学習データの検出技術を応用することができると考えている。 日本認知科学会全国大会では、他者モデルについてのオーガナイズドセッションを開催し、当該研究テーマについても多くの研究者との濃密な議論が実現された。
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