本研究は、申請者が独自に開発したラマン分光法と反応セルを組み合わせ た手法「単一粒子分光分析」を用いて、NO2とPM2.5の不均一反応速度を定量し、NO2の不均一 反応プロセスの解明を目的とした。得られる反応速度を数式化し、大気化学モデルに実装可能な基礎データの取得を目指した。
本年度は、昨年度実施したNO2の不均一反応系のデータの再現性の確認、さらに得られたデータの解析を進め大気化学モデルへの実装可能な定量的な反応速度式の算出を試みた。実験データから反応速度定数を精度良く算出するため、ガス気相中での拡散、エアロゾル相と気相界面でのガスの吸・脱着、エアロゾル内部への拡散、そして反応による溶存NO2ガスの濃度への影響を計算し、エアロゾル内では溶存NO2の濃度勾配が生じることが示唆された。これによりヘンリー定数を用いたNO2ガスの溶存濃度より、本実験での実際の濃度は低くなる可能性がわかった。これらを考慮することで、より正確な溶存NO2ガス濃度を算出することができ、反応速度定数の決定に大いに役に立った。これらの成果をもとに大気化学モデルへの実装、計算を進めている。
最も重要な本研究の成果は、本研究で開発した単一粒子分光分析法を用いて、これまでその重要性(高い反応性)を見過ごされきたエアロゾルとNO2との不均一反応系の反応速度を定量し、その反応速度はバルク溶液中に比べて100倍にもなることが示唆されたことである。
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