2023年は、モンゴル中部のMandalgoviおよび南部のBulganの草原生態系において、土壌から排出される二酸化炭素(土壌呼吸)の観測および植生調査を8月下旬に実施した。乾燥地における植生状況は、その年の気象条件、特に降水量によって毎年大きく変化する。そのため2023年の調査では、2022年に同一の調査地で得られた結果と同様の傾向がみられるのかという点に注目した。調査方法は2022年8月に実施した調査同様、各調査地において目視で植生の状況を確認し、放牧の影響が強い劣化区と、相対的に放牧の影響が小さい対照区にそれぞれ3つのコドラート(5 m×5 m、n = 3)を設置した。さらに各コドラートの中に3つの小コドラート(50 cm×50 cm)を設置し、各小コドラートの中で土壌呼吸の測定を実施した。また、土壌呼吸の測定後、各コドラート内1点の小コドラートにおいて、地下20 cmまで根のサンプリングを行うとともに、土壌コアを採取することで体積含水率を求めた。 Mandalgoviにおいては、劣化区の土壌呼吸は対照区に比して有意に低かった。一方で、Bulganにおいては、劣化区と対照区の土壌呼吸に有意な差は見られなかった。これら2つの調査地における傾向は、2022年の調査結果と同様であった。2022年の調査では、Mandalgoviよりも北に位置するHustaiでも調査を実施しており、劣化区の土壌呼吸は対照区に比して有意に低いという結果が得られている。少なくともHustaiとMandalgoviにおいては、放牧によって植物根が減少し、それが土壌呼吸の減少につながったものと考えられた。一方で、Bulganにおける劣化区と対照区の土壌呼吸に差が見られなかったことに関しては、乾燥ストレスによる土壌呼吸の抑制や、土壌中の有機炭素の量等も考慮し、今後さらに検討する必要がある。
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