研究課題/領域番号 |
20K23369
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
栗栖 美菜子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(地球表層システム研究センター), Young Research Fellow (80880864)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | エアロゾル / 鉄 / 植物プランクトン / 人為起源 |
研究実績の概要 |
本研究は、人間が大気中に排出した鉄の海洋表層での生物利用性を解明することを目的としている。背景として、鉄の不足が海洋表層の植物プランクトンによる生物生産を制限する一要因であることが挙げられる。鉄の供給源のひとつである大気中微粒子(エアロゾル)には自然起源と燃焼起源の鉄が含まれているが、燃焼起源鉄が海洋に到達した後、植物プランクトンが利用できるかどうかの観測例はなく、定量的な解析が必要である。 そこで本研究では、鉄安定同位体比を鉄の起源の指標として、室内培養実験を行う。プランクトンを含む海水にエアロゾルを添加し、プランクトンの増殖度合いや鉄安定同位体比の変化などからエアロゾル中の起源別の鉄の利用可能性を定量的に探る。 2020年度は、エアロゾルの分析と培養実験の準備を進めた。 エアロゾル試料は、陸域・海洋で既に採取していた試料に対して、粒子中に含まれるすべての鉄・可溶性の鉄の濃度や鉄安定同位体比の分析を進めた。燃焼起源鉄は自然起源鉄に対して低い鉄安定同位体比を示し、高い溶解率を示したため、より高い生物利用性を示すと予想される。これらの試料を用いて2021年度に培養実験を進める。 また、実験に必要となるエアロゾル試料と海水を採取するため、2021年2月から3月にかけて、海洋地球研究船「みらい」のMR-21-01航海に参加した。航海対象地域である北太平洋亜寒帯域の海水は鉄濃度が非常に低いため、培養実験に適している。本航海で採取したエアロゾル試料は2021年度に分析をして、培養実験にも用いることを検討している。また、培養実験の詳細な条件の検討も進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度には培養実験の条件を検討し、実際の実験を始められるようにすることが目的であった。しかし、実験内容の検討と、エアロゾルの基本的な情報を得るための分析に留まった。理由として、内容を検討した上で実験を始めるための時間をとるのが困難であったことが挙げられる。一連の培養実験にはある程度のまとまった期間が必要であるが、今年度は2か月程度の航海があった上、その準備にも時間を要した。実験内容の検討はある程度詰めることができたので、実験開始に向けて準備を進めている。 一方、エアロゾルの分析について、鉄濃度と鉄安定同位体比の分析を定期的に進めることができた点は評価すべき点と考える。2020年度に得られた結果を基本情報として、培養実験を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、9月頃までにまとまった時間をとり、培養実験を進める予定である。 添加するエアロゾル試料については、生物利用性の特徴が異なる可能性を考え、陸域・洋上で採取されたエアロゾルをそれぞれ用いる予定である。しかし、洋上で採取されたエアロゾルは、陸域に比べて非常に濃度が低いため、プランクトンの増殖に十分な試料量がない可能性がある。まずは陸域で採取されたエアロゾルを用いて鉄の要求量・プランクトンの増殖度などを観測し、方針を考える。また、培養実験では、エアロゾル中の鉄が海水中に溶けだして、プランクトンに取り込まれる過程を同位体比をもとにして追うことを考えている。そのために、海水中の溶存鉄、プランクトン中の鉄(生物体粒子)、エアロゾル中の粒子に残存する鉄を別々に分析する必要があるが、生物体粒子とエアロゾル中の粒子をどのように分ける点が課題である。本研究では、対応策として、半透膜チューブ中にエアロゾルを入れて、プランクトンはその外部でのみ生息するようにして、それぞれを分けることを考えている。 実験を進めながら各種分析も積極的に進め、今年度後半には学会発表なども積極的に進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主に植物プランクトンの購入や、実験に使用する容器類、分析に使用するアルゴンガス代に使用する予定であった。しかし、実験条件の検討に時間を割くこととなり、主要な実験の開始に至らなかったため、使用額が予定よりも少なくなった。実験は2021年度に本格的に行う。 上記のプランクトンの購入や、容器類、アルゴンガス代として使用する他、高純度酸試薬やフィルター、半透膜などの購入に使用予定である。さらに、放射光分析のための出張費や、学会への参加費・投稿費にも使用予定である。
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