研究課題/領域番号 |
20K23374
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小森 祥央 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (00880113)
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研究期間 (年度) |
2021-03-12 – 2024-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / スピントロニクス / 近接効果 |
研究実績の概要 |
2022年度は、高温超伝導体中のスピン輸送を調べることを目的とした酸化物の超伝導体/強磁性体のナノ構造の作製と低温(1.5K)かつ高周波(40GHz以上)で強磁性共鳴の研究を行うためのシステムの構築を行った。d波の超伝導ギャップの対称性を有する高温超伝導体のみならず、s波の対称性を有する酸化物超伝導体を用いて、強磁性体から超伝導体中に侵入する磁気秩序(交換磁場)の測定を行ったところ、超伝導ギャップが異方的になる(d波に近づく)につれて、超伝導体中に磁気秩序が長距離で侵入することが見出された。これは超伝導ギャップの大きさが実効的に小さくなるd波のノード部分に由来するものであると考えられ、d波対称性を有する高温超伝導体が磁気秩序の長距離伝搬に適していることを実証する結果となった。超伝導体中において磁気秩序をコヒーレンス長を上回るスケールで伝送可能であることを示す本研究成果は、高温超伝導体を用いたスピントロニクスデバイスに特有の機能として期待される。国際共同研究に関しては、英国ケンブリッジ大学のJason Robinson教授やイタリア・サレルノ大学のMario Cuoco教授とオンラインのみならず海外で直接議論を進める機会を設け上記の研究成果の理論をはじめとしたディスカッションを行った。また低温高周波測定に関しては、韓国UNISTのDr. Mi-Jin Jinの研究室に短期訪問し、ノウハウを得ることによってセットアップを行った。また、集束イオンビームを用いた微細構造超伝導体研究の最先端の研究者であるUniversity of California, RiversideのShane Cybart先生に来日していただく機会を設け、トンネル接合を用いた高温超伝導体/強磁性体界面での状態密度分析に関する共同研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
s波およびd波対称性を有する酸化物超伝導体と強磁性体のナノ界面の物性評価のための高品質な試料の作製が可能になり、界面での超伝導と磁性の相互作用が超伝導の対称性によって異なることが示唆される重要な知見を得ることができたためである。また、低温測定および高周波測定のセットアップが完了し、DCの電気・磁気測定のみならずGHz帯の測定によって高温超伝導体に強磁性体からスピンを注入する研究を行うことが可能になり、これらによって酸化物超伝導体中の交換磁場の長距離伝搬に関する研究成果も得られており、国際共同研究への展開も進んでいるためである。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度構築した高周波測定系において高温超伝導体のスピン輸送特性を系統的に評価する。これによって高温超伝導体中における磁気秩序がスピン輸送にもたらす影響、さらにはスピン三重項高温超伝導状態の生成による長距離スピン輸送が可能かといった超伝導デジタルコンピューティングにも応用可能な知見を得るための研究を行う。 またShane Cybart教授との共同研究による集束イオンビーム加工によるナノデバイスの作製によって、高温超伝導体/強磁性体界面における状態密度の評価、また高温超伝導/強磁性体構造からなるジョセフソントンネル接合の研究も行い、こちらもナノエレクトロニクスへの応用可能性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の使用額は今年度使用額の1%以下であり、装置購入および消耗品購入を予定通りに行った結果生じたものである。持越し費用は消耗品費用として薄膜試料作製のための真空装置に必要なフレキシブルチューブの購入に充てる予定である。
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