2023年度は、酸化物高温超伝導体と酸化物強磁性体の界面における複雑な相互作用の起源の解明に関する研究を行った。従来型の金属超伝導体と金属強磁性体の界面では見られない非従来型の相互作用が高温超伝導スピンバルブ構造 (強磁性体/高温超伝導体/強磁性体の3層構造) で確認され、それが強磁性層の電気特性に強く依存することが見出された。相互作用の長さのスケールや大きさの評価から、2つの偏極率の高い酸化物強磁性体の磁化の相対角度に依存した、クーパー対の超伝導体から強磁性体への漏れ出しが、非従来型の相互作用を生み出すことを強く示唆する結果が得られた。 また、国際共同研究で、磁気的に不均一な超伝導/強磁性界面で誘起されるスピン三重項と考えられる超伝導状態が、スピン角運動量を輸送することが高周波測定によって明らかになった。超伝導電流の測定とスピン輸送の測定の双方によってスピン三重項超伝導状態を示唆する結果が得られたのは本研究が初めてである。 期間全体を通じて、高温超伝導体/強磁性体界面をはじめとしたナノ構造の界面物性に関して、多くの知見を得ることができた。異方的なd波高温超伝導に起因する非従来型の長距離の交換相互作用、スピン輸送、近接効果が見出され、磁性が高温超伝導に及ぼす効果や高温超伝導が磁性に及ぼす効果の詳細を明らかにすることができた。これは、d波高温超伝導体を用いた、磁性ジョセフソン接合や超伝導スピンスイッチなど新たな機能性を有する超伝導エレクトロニクス材料の設計に役立つ成果である。
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