視覚刺激の運動方向の検出は視覚機能の中でも最も重要な神経演算であり、餌や天敵の検知や自己運動の知覚などを可能にするため動物の生存にとって重要である。視覚刺激の運動方向に選択的に応答する方向選択性細胞は視覚情報処理の最初のステージである網膜で既に観察される。研究代表者は最近、網膜の方向選択性がこれまでの予想に反し、方向選択性細胞に興奮性入力を送る双極細胞の軸索末端シナプスで既に出現することを発見した。本提案ではこの軸索末端シナプスの方向選択性がいつどのように発達するのかを明らかにする研究を行なった。2021年10月1日から情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の教授として帰国し新たな研究室を立ち上げている。1年目の計画の通り、マウス網膜神経回路中の個々のシナプスの視覚刺激に対する活動を記録するための二光子イメージングシステムの構築を行なった。除振台、二光子顕微鏡とレーザーの設置が完了した。また、1年目の計画の通り、Type7ON型双極細胞のみを標識できるトランスジェニックマウスを新潟大学脳研究所との共同研究により作成し、遺伝研へマウスを搬入した。レポーターマウスとの交配を行い、組織学的解析を行なった結果、想定通りに網膜においてType7ON型双極細胞のみが標識されていることが示唆された。現在、2年目以降の計画の通り、標識細胞からの二光子イメージングなどの生理学的実験を行っているところである。この研究によって、神経回路による感覚特徴抽出の戦略とその基盤となる発達機構が明らかになり、複雑かつ精緻な哺乳類中枢神経回路の機能発達の基本原理の生理学に基づいた観点からの理解が進む。
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