研究課題/領域番号 |
20K23380
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
三原田 賢一 熊本大学, 国際先端医学研究機構, 特別招聘教授 (40455366)
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研究期間 (年度) |
2021-03-12 – 2024-03-31
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キーワード | 胆汁酸 / 母子連関 / オキシステロール / 肺発生 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまでに胎児肝造血幹細胞で異常が確認されていた母体における27-hydroxylase (Cyp27a1)欠損の他の臓器における影響を解析した。既に、Cyp27a1欠損マウスから出生した胎仔が呼吸窮迫症候群(RDS)を呈することを発見していたが、このマウスを解析したところ肺胞上皮のI型細胞(ガス交換を担当)、Ⅱ型細胞(サーファクタントの分泌を担当)が著減していることがわかった。少し時間を遡って胎生14.5日目で解析したところ、肺胞上皮前駆細胞は残存していたが、ほとんどの細胞が分裂を停止していた。また、シングルセルRNA解析を行ったところ、Cyp27a1欠損母体由来の胎仔肺ではむしろ肺胞上皮の分化に必須である遺伝子(Sftpc, Agerなど)とリボソーム遺伝子群の発現が異常亢進していた。しかしタンパク質レベルでは発現亢進は観られず、むしろ減少が認められた。このことから、肺胞上皮細胞の分化に必要な遺伝子の翻訳が障害を受けている可能性が示唆された。救済実験として不足している胆汁酸や27-hydroxycholesterolの投与を行ったが、RDSを救済することはできなかった。逆に、Cyp27a1が欠損することで蓄積するオキシステロール類を野生型妊娠マウスに投与したところ、7a-hydroxycholesterolを投与すると一定数が妊娠中に死亡或いは出生後にRDSになることがわかった。野生型胎仔肺を摘出し、in vitroによる全組織培養を行ったところ、7a-hydroxycholesterolを添加した場合は細気管の分岐が悪くなることが明らかとなった。以上より、母体での27-hydroxylase活性は胎児臓器の発生に悪影響を与えるオキシステロールの蓄積を防ぐ重要な役割を担っている事が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺での異常を起こすメカニズムを解明する上でネックとなる直接の原因物質が特定できたことで、分子機序や標的細胞・分子の同定などへの道が拓けた。母体を介さない体外培養の実験でも肺組織への影響を観察できたことから、オキシステロールが直接作用する分子であることも示すことができた。過去の我々の研究から、本マウスモデルで観察された多くの異常は母胎胆汁酸の不足によるものだと考えられたが、結果としては異常に増加したオキシステロールによるものであった。この機序も別仮説として存在していたが、両仮説ではその後の研究方針が大きく異なるため、早い段階で結論が出せた点は大きい。救済実験がうまくいかなかったことも説明がつくため、全体として順調な進展をしていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
原因物質である7a-hydroxycholesterolは胆汁酸合成の中間代謝物として有名なオキシステロールだが、その生理活性に関してはほとんど興味を持たれておらず、どういった機序で悪影響を与えているかが次の、そして最大の疑問となる。我々は温度変化に対する安定性を利用したプロテオミクスを用いて胆汁酸のような化合物の標的タンパク質を同定したことが有り、今回も同技術を用いて7a-hydroxycholesterolのターゲットを探索する。その分子機序が明らかとなった段階で、まずここまでの研究成果を論文発表する予定である。 次に、肝臓における異常を解析する。こちらは肝芽腫との関連が示唆されており、母胎胆汁酸が不足すると肝細胞が未分化なまま残存する可能性が考えられるが、出生後にマウスが死亡するためそのままでは解析ができない。そこで肝細胞の移植系を立ち上げ、その腫瘍化を検討する。 別の胆汁酸合成異常マウスモデルとしてCyp7b1欠損マウスを準備しており、ようやく飼育が始まった。十分の飼育数が確保できた段階でホモ欠損マウスの作出、さらにはホモ欠損母親を妊娠させた場合の胎仔への影響を解析する。このマウスでは同様に胆汁酸が不足するが、別種のオキシステロールが蓄積するため、Cyp27a1欠損マウスの結果と照らし合わせてオキシステロールの成体への影響と妊娠中の母体代謝の保護作用に関して検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
採用する予定であったポスドク研究員或いは技官ポジションが決定せず、その分の費用が使われなかった。また、物流の混乱で一部の物品の納品が遅れており、年度をまたぐこととなった。
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