研究課題
本研究は、脂肪細胞のNAD生物学を標的として、インスリン抵抗性の病態形成機序を解明し、新規治療法・予防論を開発することを主な目的とする。まず第一に、個体レベルにおける脂肪細胞NAD代謝と糖代謝・インスリン感受性の関連を検証するため(計画1)、予備試験として脂肪細胞特異的な核内NAD合成酵素(NMNAT1)欠損マウスの代謝表現型を解析し(投稿準備中)、ミトコンドリアNAD代謝が糖代謝・インスリン感受性制御に特に重要であると着想した。そこで、ミトコンドリアNAD濃度を調節する新規ミトコンドリアNAD輸送体(SLC25A51)の脂肪細胞特異的過剰発現マウスおよびflox-SLC25A51マウスを作製した。さらに、インスリン抵抗性の病態形成に重要な役割を果たす脂肪組織線維化とNAD代謝の関連に着目し、鍵NAD中間代謝産物NMNによる脂肪組織のNAD合成系の賦活化が、脂肪組織線維化、インスリン抵抗性に与える影響を、高脂肪食負荷モデル、遺伝子改変線維化モデルマウスを用いて検討を行う準備を行なっている。また、脂肪細胞の新規NADエンハンサーを同定するため(計画2)、慶應義塾大学生理学岡野研究室との共同研究において、ハイスループット生物発光アッセイを用いたHEK293細胞における予備実験を行なった。さらに、ヒトの肥満・インスリン抵抗性におけるNAD代謝の意義を検証するため(計画3)、ワシントン大学のKlein研究室との共同研究において、肥満・2型糖尿病患者において強化生活習慣改善(ダイエット、有酸素運動)が脂肪組織、骨格筋のNAD代謝に与える影響を解析した(一部結果を投稿中)。同時に、体重減少効果を検証する精緻な臨床代謝研究を立ち上げるため、低侵襲デバイス(腹部超音波など)を用いた脂肪組織の機能評価系、NADメタボロミクス(富山大学中川研究室との共同研究)などの検討を行なった。
3: やや遅れている
本研究は、脂肪細胞内の総NAD量(律速酵素NAMPT)に着目して研究を進める予定であったが、ミトコンドリアNAD量が全身の糖代謝およびインスリン感受性制御に関与することを示唆する重要な知見を得たため、特にミトコンドリアNAD代謝(ミトコンドリアNAD輸送体SLC25A51)に着目して研究を進めている。また、最近の報告、我々の予備試験結果により、NAD代謝と線維化の関連にも着目して研究を進めている。所属研究機関の動物飼育施設の改修工事、研究者が日本でラボを立ち上げる初年度であったことなどの影響もあり、当初の予定よりは若干の遅れがあると考えられる。
本研究課題の次年度では、脂肪細胞ミトコンドリアNAD代謝が糖代謝および肥満・インスリン抵抗性の病態形成で果たす役割について検証を行う。具体的には、脂肪細胞特異的SLC25A51過剰発現マウス・欠損マウスの包括的な代謝表現型(糖代謝、エネルギー代謝)の解析を行う。また、NMN投与が脂肪組織線維化、インスリン抵抗性に与える影響の検討も行う予定である。同時に、培養細胞におけるNADエンハンサーのスクリーニングを継続し、可能なら2次スクリーニングへと移行する。さらに、先駆的なヒト代謝臨床研究の基盤を作るため、ワシントン大学医学部Klein研究室との国際共同研究をさらに発展させ、同時に、臨床研究に応用できる低侵襲な脂肪組織機能評価法、NADメタボロミクス(富山大学中川研究室との共同研究)の更なる開発を行う予定である。
所属研究機関の動物飼育施設の改修工事、研究者が日本でラボを立ち上げる初年度であったことなどの影響もあり、本年度に研究推進(特にマウス実験)に若干の遅れが生じている関係で、一部の研究費が次年度に持ち越される。持ち越された研究費は主として、次年度における遺伝子改変マウスの機能解析に使用される予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 5件)
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