研究課題/領域番号 |
20K23383
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
丹野 秀崇 公益財団法人東京都医学総合研究所, 疾患制御研究分野, 副参事研究員 (00740705)
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研究期間 (年度) |
2021-03-12 – 2024-03-31
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キーワード | 癌 / 免疫 / 遺伝子治療 / 1細胞解析 / T細胞受容体 / 抗体 |
研究実績の概要 |
T細胞はT cell receptor (TCR)を介して癌細胞や感染細胞が提示しているpeptide-MHC(pMHC)複合体を認識し、これらの病原細胞を殺傷する。TCRとpMHCの相互作用を把握することは癌遺伝子治療薬や感染症予防ワクチンを開発する上で重要である。本研究では研究代表者が開発した1細胞シークエンス技術を用いることによって癌特異的TCRの単離およびその遺伝子治療への応用を試みている。 2022年度は共同研究先から癌患者由来検体(脂肪肉腫、滑膜肉腫、脱分化型脂肪肉腫、膵臓癌、肺癌)を入手出来たため、患者由来検体を用いて解析を進めた。それぞれの癌検体について細胞株の作製を実施し、脂肪肉腫、滑膜肉腫、膵臓癌、肺癌の細胞株を樹立することに成功した。また、それぞれの腫瘍内に浸潤しているT細胞および患者末梢血中のT細胞に対して1細胞シークエンスを実施し、TCRレパトアを決定した。更に現在、患者由来TCRライブラリーをT細胞株にディスプレイさせ、患者由来癌細胞株と反応させることによって、癌特異的TCRの配列を高速に同定することを試みている。癌特異的TCRを単離後は、2021年度に開発したウイルスベクターによるpMHCのディスプレイ技術と組み合わせることにより、TCRが何の癌抗原およびMHCを認識しているのかを同定する。 また、腫瘍内に浸潤しているB細胞がどのような抗体を発現し、何の抗原を認識しているかはほとんど解明されていない。未知の抗体―抗原を発見できれば、新規抗体医薬の開発を出来るだけでなく、新規創薬ターゲットの創出にも繋がる。そこで、腫瘍内抗体の特徴を高速に調べるために、酵母による抗体ディスプレイ技術の実験系を立ち上げた。現在、抗体ディスプレイ技術を腫瘍検体に適用し解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度にはウイルスベクターを用いたTCRライブラリーのディスプレイ系およびpMHCのディスプレイ系を構築し、2022年度には患者由来細胞株を樹立することに成功した。これにより、培養細胞系において癌特異的TCRおよびその認識癌抗原-MHC複合体の同定を高速に検証できる体系が整い、研究計画はおおむね順調に進展していると言える。また、癌細胞株の樹立によりin vitroにおける癌細胞増殖メカニズムの詳細な解析が可能となった。今後も共同研究先との連携を強化し、様々な癌検体の収集および解析を進めていく。また、酵母による抗体ディスプレイ法の立ち上げも成功し、癌患者が発現する抗体レパトアのスクリーニングにも着手している。
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今後の研究の推進方策 |
それぞれの癌患者由来検体に対してスクリーニングを行い、癌特異的TCRを単離し、その認識pMHC複合体を同定する。そして癌特異的TCRを導入したT細胞の癌殺傷効果を癌細胞株で検証し、その後、動物実験でも癌治療効果および副作用のレベルを検証する。具体的にはTCR導入T細胞の腫瘍内および正常組織への浸潤度合いや、TCR導入T細胞および癌細胞のトランスクリプトーム解析を実施する。 加えて、腫瘍内に浸潤している抗体についても酵母ディスプレイ法を用いて高速スクリーニングを行い、癌特異的抗体の単離を行う。癌特異的抗体を単離後、その癌殺傷効果を同様に培養細胞実験、動物実験で検証していく。また、得られた抗体を用いたCAR-T細胞も作製し、その癌治療効果を検証する。更に、癌特異的抗体を充填したアフィニティカラムを作製し、癌ライセートと質量分析器を用いることにより、癌抗体が認識している癌抗原の同定を試みる。 上記スクリーニング系により、TCRおよび抗体が認識する新規の癌抗原を発見できた場合は、その癌抗原に結合する低分子化合物のスクリーニングもDNA encoded libraryを用いることにより実施し、癌殺傷効果を検証する。加えて、新規癌抗原を用いた癌ワクチンが免疫反応を惹起できるか、癌殺傷効果があるかどうかもin vitro, in vivoの実験系により検証していく。 脱分化型脂肪肉腫に関しても最適な培養条件を見つけ出して細胞株の樹立を達成し、スクリーニング系に使用する。また、既に樹立してある癌細胞株についてもトランスクリプトーム解析、全ゲノム解析等を実施し、癌細胞の特徴を詳細に把握していく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
終了した研究室から高額機器を引き継いだため、物品費が予定より少額に抑えられた。未使用額は2023年度に用いる試薬類や機器購入に充てる予定である。
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