研究課題/領域番号 |
20KK0027
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研究機関 | 大阪経済大学 |
研究代表者 |
芹澤 成弘 大阪経済大学, 経済学部, 教授 (90252717)
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研究分担者 |
青柳 真樹 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (50314430)
舛田 武仁 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (80725060)
數村 友也 京都大学, 経済学研究科, 講師 (50804960)
ZHOU YU 名古屋大学, 経済学研究科, 准教授 (40807450)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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キーワード | マーケットデザイン / オークション / マッチング / 耐戦略性 / 経済実験 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、オークション・モデルと非分割財配分モデルを中心に、マーケット・デザインとその基礎となるメカニズム・デザインの研究を行った。 1)入札者が非線形な選好をもつ多数財オークションで、入札者が高々一つの財を需要する(単一需要性)場合には最小価格ワルラスルールがパレート効率性、個人合理性、耐戦略性を満たす唯一のルールであることを、また、入札者が複数の財を需要する場合にはそのようなルールが存在しないことをすでに示している。今年度は、入札者が複数の財を需要する場合にパレート効率性を諦め、より弱い効率性を、個人合理性と耐戦略性とともに満たすルールについて、分析した。その結果、あらかじめ複数の財を一つの財としてバンドリングし、バンドリングされたそれぞれを一つの財と見なし、各入札者が高々一つのバンドリングされた財を需要すること仮定した上で、最小価格ワルラスルールを適用すれば、弱い効率性、個人合理性と耐戦略性を満たすことができ、さらに、そのルールが三つの性質を持つ唯一のルールであることが判明し、その数学的な証明の概要を作成した。 2)ヴィックリー・オークションは耐戦略性を満たすが、経済実験の多くの実験では被験者が支配戦略を用いないことが報告されている。その要因としていろいろな仮説が出されているが、単に被験者が耐戦略性を理解していないことが理由とも考えられる。そこで、同質な複数単位の非分割財のヴィックリー・オークションで被験者に耐戦略性を理解させる練習問題を課した場合の効果を分析する経済実験を以前に実施したが、論文としては十分な形でまとめられてはいなかった。本年度は、その論文の草稿を世界の多くの実験経済学者からコメントをもらい、そのコメントを元に論文として完成させた。 3)その他にも、前年度までに論文として学術誌に送った研究を改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【実績の概要】の1)で説明した通り、入札者が非線形な選好をもつ多数財オークションで、入札者が複数の財を需要する場合にパレート効率性を諦め、より弱い効率性を個人合理性と耐戦略性とともに満たすルールについて、分析を進めることができた。その結果、あらかじめ複数の財を一つの財としてバンドリングした上で最小価格ワルラスルールを適用するルールが、弱い効率性を個人合理性と耐戦略性とともに満たす唯一のルールであることが判明した。企業が利潤最大化のために複数の財を抱き合わせ販売する可能性があることは、過去の文献でも分析されていた。しかし、弱い効率性を個人合理性と耐戦略性とともに満たすためにバンドリングが必要なことを示した研究は、この研究が初めてである。周波数ライセンスのオークションの場合、周波数を物理的に細かく分割してオークションにかけることも可能であるが、多くの国ではある程度大きな周波数帯としてバンドリングし、各入札者に高々1個のライセンスだけを獲得可能にしている場合が多い。そのような事例に本研究の分析は適合している。このような点で、本研究の成果は非常に新規性高く、十分な進展である。 【実績の概要】の2)で説明したヴィックリー・オークションで被験者に耐戦略性を理解させる練習問題を課した場合の効果を分析する経済実験の結果を論文としてまとめることができたことも、大きな進捗である。 【実績の概要】の3)で説明した通り、前年度までに論文として学術誌に送った研究を改善した。Journal of Economic Theory、Games and Economic Behavior (3本)などからの再投稿要請の改訂要求に応える改善であるので、本研究が順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
【実績の概要】の1)で説明した研究結果は、現状では数学的な非常に証明が長くまた難解であり、多分現在これを理解できる読者はほとんどいないと思われる。2023年度には、この証明をわかりやすくする努力する計画である。論理の流れを整理したり、一般的ではなく少数の入札者や財のモデルで証明を例示したり、多くの図を作成して証明の論理を読者が直感的に理解できるような工夫をしたりする。また、この研究成果をコンファレンス、ワークショップ、セミナーなどで積極的に発表してできるだけ多くのコメントをもらい、それをもとに論文を改善する。 【実績の概要】の2)で説明した研究は、オークション・モデルのヴィックリー・ルールで被験者に耐戦略性を理解させる練習問題の効果を分析したが、同様なことを他のモデルで今後順次行う計画である。マッチング・モデルのDeferred Acceptanceルールも、耐戦略性を満たすが経済実験では支配戦略を使わない被験者が多く見られることが報告されている。そこで、オークション・モデルの次にDeferred Acceptanceルールについて分析する。Deferred Acceptanceルールは本来動学的なメカニズムだが、過去の経済実験では専ら静学的なメカニズムに変換されたルールが使用されている。 オークション・モデルでヴィックリー・ルールと競り上げルールは数学的には同値であるが、経済実験では被験者の行動に違いがあることが報告されている。Deferred Acceptanceルールについても、動学的メカニズムと静学的メカニズムを比較する。ただし、このような経済実験は大掛かりになるので、2024年にはインストラクション、練習問題、プログラムの作成を計画している。 今までの成果を学術誌に投稿しているが、その改訂要求が2024年度にも来ると予想される。実際に来たら優先的に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究プロジェクトでは、次のように多くの海外研究者と共同研究を行なっている。すなわち、1)Shurojit Chatterji (シンガポール)および Jordi Masso (スペイン)と複数の連続分割可能財の再配分問題の研究、2) James Schummer (米国)および Yuki Tamura (アラブ首長国連邦)と非分割財の再配分問題の研究、3)Debasis Mishra(インド)との公平性を重視するオークション理論の研究、4)John Weymark (米国)との耐戦略性をもつ投票ルールの研究、5)Sun Ning (中国)とのマッチング理論の研究などである。 本研究プロジェクト開始時にはコロナが蔓延し海外出張を慎重に行なっていたが、2023年度にはその心配がほぼなくなったので、互いに海外出張・招聘を行い対面で共同研究を推進しようとした。しかし、所属研究機関との事前調整に長い時間が必要なことが多く、十分にできなかった。そこで、所属研究機関との事前調整が間に合うように、一部の海外出張・招聘計画を2024年度期間に移すことにした。それに合わせて、本研究プロジェクトの予算も一部次年度に移すことにした。本研究プロジェクトでは、次世代の日本の経済学研究を担う若手研究者の育成を兼ねて共同研究を行なっている。次年度に移す予算に余裕があれば、彼らの海外出張費にも使用する。
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