研究課題/領域番号 |
20KK0036
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
坂本 徳仁 東京理科大学, 教養教育研究院野田キャンパス教養部, 准教授 (00513095)
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研究分担者 |
後藤 玲子 帝京大学, 経済学部, 教授 (70272771)
宮城島 要 青山学院大学, 経済学部, 准教授 (90587867)
中田 里志 東京理科大学, 経営学部ビジネスエコノミクス学科, 講師 (90822453)
吉原 直毅 一橋大学, 経済研究所, 非常勤研究員 (60272770)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | 不確実性・リスク下の社会評価 / 可変的人口を伴う社会評価 / 費用効果分析、費用便益分析 / 予防原則 / 厚生経済学 / 社会選択理論 / GDP以外の福祉尺度 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究実績の概要は以下の3点である。 第一に、2020年度に代表者が発見した階段関数形式の社会厚生順序の論文の改訂を行い、理論的に更なる一般化の結果を得られた。また、これらの社会厚生順序の実践的な応用例として、分位平均比較法の他に、区間人口比比較法なども加えて大幅に論文を加筆修正した。区間人口比比較法は、「所得分位」ではなく「所得区分ごとの人口比」がいくらであるのか計算し、国際・国内・集団間比較するものである。この方法は研究代表者の考案した分位平均比較法と異なって、分離可能性という有用な性質を満たすことができるため、国内の異なる集団比較(たとえば、男性と女性の比較、生年別のコホート比較、健常者と障がい者の比較、都道府県別の比較など)をする際に有用な方法だと考えられる。これらの改訂を加えた新たな原稿はワーキング・ペーパーにまとめて現在公開している。 第二に、人口倫理学における複数のジレンマ(厭わしい結論、嗜虐的な結論など)を整理・比較検討し、どの種類のジレンマがいかなる倫理・哲学的要請や公理の組み合わせから生じるのかを検証した。これらの分析結果から、従来のよく知られた不可能性定理の結果に加えて、多数の新たな不可能性定理と可能性定理を得ることに成功した。これらの結果は人口倫理学の基本問題を整理・再検討するものとして、現在、ワーキング・ペーパーにまとめており、近日中に公開できるように努める。 第三に、不確実性とリスクの社会的評価の問題について、従来の経済学の主流派であるベイズ主義とその他の哲学的な立場について整理・比較検討の作業を遂行した。また、この問題に関連して、研究分担者の宮城島氏はマーク・フローベイ流の事後的な平等主義の立場に基づく社会評価の方法論を考察し、共同研究機関のLSEの研究会で報告した。宮城島氏の研究成果は学術誌に公刊されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内研究者による個別の研究活動は極めて順調だと言える。たとえば、研究代表者の研究では、異なる人口集団間の厚生水準を比較する際の実践的な方法論の開発(分位平均比較法、区間人口比比較法)とその理論的な擁護(代表者の開発した集団間の厚生比較の実践的方法論が異論の少ない標準的な公理の組み合わせで特徴づけられること)に成功した。さらに、人口倫理学における数々のジレンマが一般的な哲学・倫理学上の要請と公理系の組み合わせによってどのように引き起こされるのか再検討し、新たな不可能性定理と可能性定理を複数得ることにも成功した。この分析結果により、そもそも人口倫理学におけるジレンマの本質は「増加した人口の厚生水準と従来の人口の厚生水準のトレードオフ」の問題にすぎず、代表者の発見した階段関数形式の社会厚生順序の一般化を使うことが望ましいことを確認できている。また、研究分担者の宮城島氏は不確実性下の社会評価の問題において事後的な平等主義に基づく社会評価の方法論を特徴づけており、学術雑誌に公刊している。また、研究分担者の中田氏は代表者と共に標準的な公理系のもたらす許容可能な社会厚生順序のクラスを整理・比較検討する作業を開始しており、一定の研究成果が得られ始めている。 その一方で、2021年度も2020年度同様に海外渡航が全くできなかったため、国際共同研究の遂行には大きな支障が出た。2022年度も引き続きオンラインでの研究会開催、個別のメールでのやり取り、ZOOMでの面談を通して共同研究を進める予定ではある。しかしながら、2022年度から海外渡航が徐々に可能になっている状況にあるため、ロンドンやパリに出張可能である研究者は適宜海外の共同研究先に滞在し、国際共同研究を強力に推し進め、国際的な共同研究拠点の形成を促進することを目指すこととする。
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今後の研究の推進方策 |
得られているすべての研究成果については、順次ワーキング・ペーパーにまとめ、国際学会・研究会で報告し、学術雑誌での公刊を目指す。 国際共同研究の進め方については、海外の共同研究機関に滞在できない間は、昨年度同様に、引き続きオンラインでの研究会開催や、個別のメールでのやり取り、ZOOMでの面談を通して共同研究を進めていかざるを得ない。しかし、2022年度から徐々に海外出張が可能になりつつある環境に変わっているため、海外出張が可能な研究者から適宜お互いにとって都合のよい時期に提携先の研究機関に赴き、国際共同研究を強力に推進することとする。また、本研究チームに好意的・肯定的な海外研究者たちとの交流を増やし、提携先の研究機関のみならず、北欧や北米大陸の研究者との意見交換を活発に行うことで、国際的な研究拠点の創生を目指す。 この他、GDPに代わる福利指標の社会実装のためにも一般向けの解説や、翻訳本を執筆することも進める。実際、研究代表者の考案した「分位平均比較法」は、従来よく用いられてきた一人当たりGDPに代わる比較法であり、所得分布の任意の区分ごとの平均所得を計算し、その加重和を社会厚生と見なす方法論である。たとえば、所得分布を「下位10%、11~30%、31~50%、51~70%、71~90%、91~99%、上位1%」のような形で区切り、各分位の平均所得を計算する。その分布平均所得にウェイトを付して、そのウェイトに基づく加重和を社会厚生と見なす。この方法論では、分位のウェイトが所得の低い層ほど高くなるように設定されるが、無理にウェイトを設定せずに、所得分位ごとの平均所得の推移を見るだけでも有用な情報を抽出することができる。これは従来の所得・資産の不平等の比較の手法に比べて様々な有用な性質を満たすために、今後国際的に標準的な手法として活用することが望ましいと考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度もコロナ禍により、(アメリカの大学に籍を置く研究分担者である吉原氏を除く)研究チームの全員の海外渡航が不可能であり、旅費を使用できない状況が続いたため、2022年度に研究費を持ち越すこととなった。2021年度も2020年度同様にLSEとの国際共同研究をオンラインで進めたものの、研究拠点形成と人材交流の促進のため、海外渡航が可能になりつつある2022年度からは日本側研究チームが積極的に渡欧し、集中的に国際共同研究を進める予定である。
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