研究課題/領域番号 |
20KK0057
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡部 真也 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70435973)
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研究分担者 |
橋詰 雅斗 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 日本学術振興会特別研究員(PD) (20836712)
猪奥 倫左 東北大学, 理学研究科, 准教授 (50624607)
小野寺 有紹 東京工業大学, 理学院, 准教授 (70614999)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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キーワード | 偏微分方程式論 / 変分法 / 調和解析 / 幾何解析 |
研究実績の概要 |
二階楕円型・放物型方程式に対する豊富な研究成果の源泉の一つは最大値原理や比較原理といった解析手法であるが、それらは高階楕円型・放物型方程式に対しては一般に成立しないことが知られている。本研究は、高階楕円型・放物型方程式に対する最大値原理や比較原理に代わる新たな解析手法を調和解析と幾何解析の協働により構築することを目的とするものである。具体的には以下の方針に沿ってその達成を目指す: (1) フーリエ球対称化とよばれる調和解析的手法を応用し、高階楕円型・放物型方程式の解の振動の影響を損なうことのない、新たな解析手法を構築する (2) 種々の幾何学的高階変分問題に対して、その幾何構造を活用した研究成果を蓄積し、(1)で得られる成果と比較検討することによって、(1)で構築する調和解析的手法との融合を図る。 本年度はコロナ禍のために国内はもとより海外出張をすることが実質的に不可能であったため、本研究計画の柱であったドイツ側の研究グループと日本側の研究グループとのグループ対グループによる共同研究を展開する機会が皆無であった。その影響により (1) に関する研究にはやや遅れが生じている。高階放物型問題の解の正値性や可解性については研究の進展が見られたものの、振動の影響を損なうことのない新たな解析手法の構築は次年度以降の課題として残されている。一方、(2) については代表者とドイツ側の代表である Hans-Christoph Grunau 氏との共同研究により、弾性膜に対する障害物問題について、その最小解の存在を示し、最小解が存在するための十分条件を得ることに成功した(現在、学術誌に投稿中)。退化性をもつ高階固有値問題に対する障害物問題についても、その最小解の存在を示すなど、一定の成果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は現在も続くコロナ禍のため海外出張を実施することは困難であった。実際、本研究計画はドイツの Hans-Christoph Grunau 氏を代表とする研究グループ (Anna Dall'Acqua 氏、Klaus Deckelnick 氏、Paola Pozzi 氏)との共同研究を、日本側の研究グループがドイツに赴くことによって、グループ対グループの共同研究を展開する、というものであった。しかし、本年度は海外出張そのものができなかったため、グループ対グループで議論を直接交わす機会が皆無であった。加えて、国内出張まで制限される時期が続いたこともあり、日本側研究グループ内での本研究計画の基礎を日本側グループで構築する計画にも遅れが生じた。それに伴い、フーリエリアレンジメントを応用した調和解析的手法の構築に遅れが生じている。高階放物型問題に関する研究についてはその正値性や可解性などについて進展は得られたものの、本研究課題の中心の一つであるフーリエリアレンジメントを応用した解析手法の開発は次年度以降の課題として残されている。 一方で、幾何的変分問題に対する研究においては進展が見られた。代表者と H.-C. Grunau 氏との共同研究により、Dirichlet 境界条件の下での弾性膜に対する障害物問題について、その最小解の存在を示し、最小解が存在するための十分条件を与えることに成功した。この結果は現在投稿中である。障害物問題については退化性をもつ高階固有値問題に関する結果も得られており、A. Dall'Acqua 氏と新たに協力者に加えた M. Muller 氏、吉澤研介氏(東北大、D3)との共同研究として p-弾性エネルギーに対する障害物問題について議論を開始している。 以上のような進展状況を踏まえ、本研究課題の現在までの進捗状況は「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、コロナ禍の動向を注視し、海外出張が可能となった場合には初年度に実施予定であった日本側グループによるドイツ側グループの訪問を実施し、一定期間滞在して集中的に議論を行い本研究課題における基礎の構築を目指す。しかし、現状では次年度中に海外出張が可能となるか見通せないため、ウェブツールを用いた研究討論を適宜実施して議論の不足を補うことも柔軟に検討する。ドイツとの時差もありウェブツールを用いた議論には様々な調整が必要であるが、本研究計画の推進を補助することが可能であると考える。加えて、日本側研究グループ内での研究討論を活発化させ、実際にグループ対グループの共同研究が対面で実施可能となる際に効率的に研究を推進できるよう、その基礎を構築することを目指す。国内出張が自由に行える状況になったならば対面で実施することとするが、それまではウェブツールを活用して定期セミナーをグループ内で行うことで議論時間の不足を補うこととする。 本研究課題の進展を加速させるために、日本側とドイツ側の両グループに適宜新しい研究協力者を加えることを柔軟に検討する。実際、日本側には三宅庸仁氏(京都大学)、吉澤研介氏(東北大学・D3)を、ドイツ側には Marius Muller 氏を加え、具体的な研究課題について研究討論を既に開始している。本研究課題の趣旨である日本とドイツの研究グループ間での共同研究を中心に据えつつ、研究の方向性によっては国に拘らず研究協力者を適宜加えることを検討し、国際的な研究グループを構築することも視野に入れて本研究課題を推し進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は日本側の研究グループがドイツ側の研究グループを訪問し、一定期間滞在することで集中的に研究討論を実施することによって、国際共同研究を効率よく推進することを目指すものである。しかし、本年度は世界的なコロナ禍のため、国内および海外出張を実質的に行うことができなかった。そのため、海外渡航および滞在が不可となったことによって大きな未使用額が生じた。物品についても、海外出張が不可となったことに伴い、吃緊に必要とするものがなくなったため、当初の使用計画を変更し、次年度以降の使用額と併せることによって、より長期の滞在やより頻繁な渡航を可能とし、本研究課題を効率よく推進させることとした。次年度中に海外渡航および滞在が可能となったならば、滞在期間や渡航頻度を柔軟に検討し、本研究課題の趣旨にそって旅費として使用する。コロナ禍のために次年度も本年度と同様の状況となった場合には、同様の対応を取り、研究経費を趣旨に沿った形で効率よく効果的に使用することとする。
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