研究課題/領域番号 |
20KK0061
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
徳永 陽 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, グループリーダー (00354902)
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研究分担者 |
青木 大 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (30359541)
常盤 欣文 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 副主任研究員 (30737458)
北川 俊作 京都大学, 理学研究科, 助教 (50722211)
藤森 伸一 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (70343936)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2026-03-31
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キーワード | スピン三重項超伝導 / ウラン化合物 / 磁場誘起超伝導 |
研究実績の概要 |
ウランを含む化合物では, 強磁性超伝導, 磁場誘起超伝導, 超伝導多重相など, 新奇な超伝導現象が次々と発見されており, その背景には従来の超伝導とは異なる, スピン三重項超伝導という新しい超伝導の物理が広がっている. 本研究は試料の相互提供を軸とした新たな共同研究の枠組みを確立することで, スピン三重項超伝導の機構解明に向けた国際研究を加速させることを目的としている. 研究の3年目となる令和4年度は, 新しいスピン三重項超伝導体UTe2の研究において大きな進展があった. 従来の単結晶は全て化学輸送法によって育成されていたが, 今年度新たに塩フラックス法による新しい純良単結晶の育成法を見出した. その結果, 欠損のない純良な単結晶の育成が可能となり, 超伝導転移温度はこれまで最高の2.1Kに到達し, 同時に試料の純度を示す残留抵抗率比などの指標も従来のものに比べて桁違いに向上した. さらに試料の純良化に成功した結果, UTe2において世界初の量子振動の観測に成功し, 初めてフェルミ面を実験的・理論的に明らかにすることに成功した. 磁場をb軸方向にかけた強磁場実験からは, 高磁場と低場の2つの超伝導が相が存在すること, さらに低磁場超伝導相内部にもう一つ相線が存在することも見出した. この結果は強磁場中において二つの超伝導相が混在した中間相が存在する可能性を強く示唆している. さらに高磁場下, 圧力下のNMR測定からは, 磁場をb軸方向に印加すると超伝導対称性が変化すること、さらにUTe2の超伝導は重い電子状態のみで発現することも明らかにした. 以上の成果をPhysical Review Letters, Physical Review X等を含む複数の雑誌に原著論文として出版し, 同時に国内外の学会等において発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により, 2022年度前半は海外の研究施設を利用した実験の実施は引き続き困難な状況にあったが, 秋以降はその状況が徐々に改善してきている. 2022年度は結晶育成法の大きな改善があり, 超純良単結晶が育成可能となったことから, 研究代表者及び分担者がその情報を共有し連携することで, 効果的に研究を進めることが出来た. 特に強磁場実験に関しては24テスラまでの実験を, 東北大学金属材料研究所の強磁場施設で複数回利用して実施し, 多くの新しい成果が得られた. また同時に新しい単結晶育成法を,フランスCEA研究所及びチェコのカレル大学の海外共同研究者と共有し, 海外実験のための単結晶育成を進めた.いずれの場所でも超純良単結晶の育成にすでに成功しており, 現在その基礎物性の評価を行なっている. それが完了次第, すぐにも現地に赴き実験を実施できる状況となっている. また本年度は海外の共同研究先と週2回程度の頻度でオンラインのセミナー及びミーティングを行い, 研究状況に関して綿密な情報交換を行うと共に, 国際共著論文の執筆も行った. 以上の通り, 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により海外実験のスケジュールに遅れは見られるが, それ以外はほぼ当初の計画通り研究は進捗している. そのため, おおむね順調に進展している。と判断する.
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により海外実験施設を用いた実験が困難な時期が続いたが, ようやくその状況も改善しつつある. これまではリモートでの実験のみが可能であったが, 令和5年度からは研究代表者及び研究分担者が現地に赴き, 海外実験を行う計画である. すでに現地でのマシンタイムは確保されており, 海外共同研究者の協力により測定試料の準備も完了している. 国内での実験研究についてはこれまで通り, 東北大強磁場施設やSPring-8等を戦略的に活用し, 強磁場NMRや光電子分光測定等の測定手法によってスピン三重項超伝導の総括的な理解を進める. 現在, 週2回程度の頻度で行なっている, 海外共同研究者とのオンラインセミナー及びミーティングも継続し, 研究状況に関して綿密な情報交換を行う. また海外の研究者を招いての国際ワークショップの開催を6月に計画している.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により, 令和4年度に予定していた海外施設における共同実験が延期になった. また共同実験の進捗状況に合わせて, 予定していた物品の購入を次年度以降に延期した. その結果, 支出額が予定よりも少額となり, 次年度使用額が生じた. 次年度使用額は次年度分研究費と合わせて, 海外施設における共同実験に係る費用や実験用物品の購入に係る費用等として使用する.
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