研究課題
本研究課題では、これまでの世界最大の球状トカマク合体生成実験MASTを超える新実験として注目される、英国トカマクエナジーST40との国際共同研究を推進し、超高磁場リコネクションにおける巨大加熱・輸送過程の解明およびその最適化による、定常運転連結シナリオの開拓を目標として設定している。東京大学が得意とするイオンドップラートモグラフィによる加熱・輸送過程の2次元イメージング技術を持ち込む実務協力を交えた共同研究を計画している本研究は、初年度から2年度目を「計測系立ち上げ」期間と設定し、以降を同機材を用いた国際共同実験を推進期間として計画している。研究初年度は、同計測系立ち上げ計画について、コロナ禍の影響を踏まえた研究計画の修正から開始した。2020年度は、英国でも度重なるロックダウンが発生し、現地研究者も長期にわたり入構規制の対象となり、アップグレード工事にかかわるエンジニア優先の入構制限・年度内実験凍結の影響があり、現地派遣を伴う予備実験遂行が難しい状況のため、初年度は現地への研究者派遣経費の執行は凍結するとともに、現地情勢が不透明な中での時期尚早な大型予算執行は自粛する方向に予算執行計画の修正を行いながら研究を推進した。年度内の現地実験停止により、現地持ち込み予定の分光システムの仕様確定に時間的猶予ができたことを踏まえ、当初計画からさらに空間分解能を向上させたシステム導入の可能性を吟味するため、2020年度は同初期設計からさらに光ファイバーの集積密度を高めたファイバーバンドルの試作および結像性能試験等の基礎的な予備実験を実施した。現在、当初設計のコア径400μmのファイバー配列インターバル600μmを500μm以下まで集積した構成でも結像性能を維持できる見通しを得たところであり、2021年度よりST40実験投入用の全長を確保した石英光ファイバーによる実機製作を開始する。
3: やや遅れている
2020年10月27日の内定後、実質的に予算執行可能となる12-3月の4カ月は、コロナ禍情勢を踏まえて国内における実験機材調達を中心とする形で計画修正を想定はしていたが、トカマクエナジー研究所ST40実験側でも、実験停止期間の間に追加熱系インストールに伴う真空装置ポート構成に大幅な変更が行われ、イオン温度イメージング計測系の集光系取り付けポート移動が必要なことが早期段階で確定した。ST40実験でイオン温度計測に用いるCVIライン光(529.05nm)を計測室へ伝送する光ファイバーの敷設経路・全長確定等、コストを大幅に変化させうる調達業務を現地事前視察無しの状態で推進することのリスク低減のため、2020年度段階の成果としては遅延になるが、大型予算の執行は翌年度に移行する形に早期段階で研究計画の修正を行った。年度をまたいだ予算持ち越しの形ではあるが、遅延期間自体は3カ月未満の範囲であり「やや遅れている」と評価する。2020年度中はコロナ禍の影響により現地派遣は凍結となったものの、現地研究者・技術者との情報交換、リモートデータアクセス環境の整備等は順調に進んでいる。MDSplusを利用して東大学内から現地データベースに保存された実験データに直接アクセスできる環境は整備済みであり、2019年度段階では利用できなかった高速度カメラデータ等にもアクセスが可能となりつつある。ST40実験では現在NBI3系統稼働に伴う真空装置のポート構成再編が進行、2019年度までのポート割り当てでは計測用NBIは利用できず局所計測はトモグラフィ計測のみが前提とされていたが、2020年度のエンジニアリングアップグレードを通じたポート再編時の交渉を通じて、ビームを用いた荷電交換分光法による能動計測も利用可能なポートを確保できたところである。2021年度からは同ポートを利用して計測系構築開始を予定している。
コロナ禍長期化に伴い、年度前半は引き続き出張自粛の状態が見込まれるが、英国ではワクチン普及が先行し、2021年度よりST40実験が再開されるため、年度前半はリモートデータアクセス環境を活用し予備データ取得を行う。とりわけ、新設されたON/OFFモジュレーション運転が可能な計測用NBIの性能は、2021年度にインストール予定のイオン温度イメージング計測の仕様決定に大きな影響を及ぼすため、2021年度前期は同NBIのモジュレーション運転の繰り返し速度および、得られる荷電交換光の光量オーダー調査等のデータ取得を中心に研究を開始する。国内ワクチン普及および渡航制限の軟化に伴い現地派遣を再開し、現地へ機材を直接持ち込む形でのイオン加熱2次元イメージング計測立ち上げを開始する。本計測系は、ST40実験装置からCVIライン光を集光するための集光レンズ、計測室に設置された分光器に同ライン光を伝送するための光ファイバー、分光器入力光学系、分光器出口側の結像光学系、光検出器から構成される。2019年度予備実験段階では、コストを抑えた予備実験の都合でプラスチックファイバーを用いた32CH1次元システムが構築済みだが、低コストのプラスチックファイバーに起因した40%程度の伝送ロスが生じており、同光ファイバーを全て石英製光ファイバーに置き換える。また空間分解能の拡充としてマルチスリット型分光システムの開発を行い、チャンネル数を3倍以上に拡張して二次元イメージング計測を構築する。CVIライン光の周辺には、マルチスリット分光測定時に隣接スリット信号測定ライン光以外の不純物線スペクトルが混入するため、狭帯域干渉フィルターを導入して隣接スリットからの混信をブロックすることでマルチスリット型の空間分解能拡張を実現する。同計測系建設完了に伴い、随時ST40の合体加熱実験に投入、加熱イメージング計測を開始する。
研究初年度の2020年度はコロナ禍の影響により、実質的に現地派遣を伴う国際共同研究推進が難しい状況となり、物品費中心の投入を予定していたが、本予算内定後に実質的に執行が可能となる12月から再び英国長期ロックダウン、2021年には国内緊急事態宣言が続き、現地も年度内実験凍結が確定の状況となったため、年度内に早急に機材調達を完了させる必要がなくなったことから、年度をまたいだ予算執行が基金予算の柔軟性を活かし、現地実験再開までは国内で実施可能な基礎/予備実験用器材調達にとどめる方針に変更を行った。当初32CH×3列程度のマルチスリット分光システム構築を想定していたが、コア径400μmのファイバーを600μmピッチで配列する当初の設計に対し、試作実験を通じて分光器の非点収差補正光学系の結像性能の向上で500μmピッチ以下としてもクロストークを抑えた構成が可能となる見通しが得られたため、コロナ禍が収束するまで年度前半は引き続き分光光学系の基本性能向上実験を主軸に研究を遂行、光ファイバーバンドルに積載可能な最大ファイバー本数の最適化の後、ST40実験装置から得られるCVI(529.05nm)ライン光を計測室へ伝送する実システム全長の石英製光ファイバーの調達を推進、二次元イオン温度イメージング計測系の現地建設を開始する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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