研究課題
宇宙空間に広く存在する高エネルギー粒子、宇宙線は、希薄なプラズマ中の衝撃波を介して加速・生成されると考えられており、様々な分野で異なった手法で研究されている。例えば、天文学では、遠方の天体を撮像することで衝撃波の構造を捉えるが、プラズマのミクロなスケールの情報が得られないという問題があった。この様な宇宙の現象を実験室で模擬するのが実験室宇宙物理であり、本研究では、台湾国立中央大学の多数ビーム高繰り返しの高強度レーザーであるNCU 100TWレーザーを用いて非相対論から相対論および量子力学的効果が本質的な領域まで対象を広げ、衝撃波のダイナミクスと粒子加速を研究する。2022年度も引き続きコロナの影響で台湾への渡航が制限されていたが、2023年に入りようやく隔離規制が緩和された。引き続き主要な計測器の基礎となる理論の確立、数値計算を用いたその証明、さらに国内の高強度レーザーを用いた計測器開発と実験を行なった。トムソン散乱を用いた衝撃波上流の二流体プラズマの計測のため、非平衡系のトムソン散乱理論を構築し、粒子シミュレーションによる検証を行ない、国際専門誌に結果を発表した。トムソン散乱と誘導コンプトン散乱(ICS)についても国内のレーザーを用いて実験を実施し、多方向からのイメージングと空間分解分光計測を行なった。今回初めてICSの原理実証につながる証拠が得られた。イオンを用いた衝撃波の電磁場計測ため、粒子コードを用いたシミュレーションと、国内のレーザーを用いたイオン加速実験、および非相対論パルスと相対論パルスを同時に用いた統合実験を行なった。イオン検出器を高効率化・高精度化するため、畳み込みニューラルネットワークを用いた解析手法を確率した。イオンラジオグラフによる電磁場の再構築については台湾側の共同研究者と連携して開発中である。
1: 当初の計画以上に進展している
オミクロン株の流行でゼロコロナからウィズコロナへの台湾の政策転換は早かった。2023年に入ってから、無駄な水際対策と隔離政策が完全撤廃されたのを受け、2023年1月には、台湾側の予算で国立成功大学で開催された台湾物理学会に招かれ、本研究の成果発表を行った。また、同時に国立中央大学の共同研究者との成果の共有と今後の実験計画を議論し、国立台湾大学においてセミナー発表を行った。2022年度の成果としては、主に理論・シミュレーションやAIを使った実験デザインとデータ処理、計測器の開発、さらに国内のレーザーを用いた要素実験と大型レーザーを用いた実験を引き続き行い、特に国内の高強度レーザーを用いた誘導コンプトン散乱の原理実証と、イオンの航跡場加速の間接的な証拠が取られた。さらに前倒しで二流体プラズマ系を独立なイオンビームでラジオグラフする実験を行い、これまでに見たことのない不安定性に起因すると考えられる波動状のイメージと、不安定生の結果として生成されると考えられるフィラメント構造の計測に成功している。高強度レーザーで行ったイオン加速の要素実験も成功しており、高いインパクトのある成果としてまとめていく予定である。
コロナ禍も終わり自由に台湾に渡航できるようになった。2023年度は、台湾国立中央大学の多数ビーム高繰り返し高強度レーザーを用いた実験行う予定である。これまで国内の高繰り返し高強度レーザーを用いたイオン加速と計測器開発を行い、そのための理論・シミュレーションによる実験条件の最適化等を行ってきた。まずはその結果を論文にまとめ、大型装置ではできない柔軟な実験を台湾のレーザーを用いて実験していく予定である。またAIを用いたイオン計測器の高速化と高精度化については、共同研究者が国立成功大学にスタッフとして移動したことから、成功大学でも新たに共同研究が広がりつつある。AIの専門家を共同研究者に迎え、プラズマ中の3次元ベクトル電磁場の再構築を行っていく。
コロナウィルスの影響で予定していた台湾国立中央大学での実験が行えず、予定していた打ち合わせについては、渡航制限が解除された年度の終わりに行ったが、先方予算で行ったため未使用が生じた。渡航制限が解除されたので、2023年度は未使用額を用いて台湾での実験を遂行する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (42件) (うち国際学会 17件、 招待講演 4件)
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