研究課題/領域番号 |
20KK0077
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
橋本 善孝 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (40346698)
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研究分担者 |
濱田 洋平 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 主任研究員 (80736091)
KARS MYRIAM 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 助教 (90725706) [辞退]
小林 厚子 高知大学, 海洋コア総合研究センター, 客員教授 (50557212)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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キーワード | 沈み込み帯 / スロー地震 / 付加体 / 変形機構 / 摩擦発熱 |
研究実績の概要 |
四国白亜系四万十帯横浪メランジュ北縁断層の脆性破砕帯が局所的な発熱を記録していることを古地磁気学および岩石磁気学によって明らかにした研究を国際雑誌に公表した.また,同破砕帯における帯磁率異方性の結果から,初期の圧密変形に剪断変形が重複する過程で,歪み軸の揃う延性変形から歪み軸を乱す脆性変形への変形機構の変化が想定された.この変形機構の変化を実際に観察するため,国際共同研究のカウンターパートであるドイツ・ハレ大学のMichael Stipp教授を訪問した.手法は光学顕微鏡および電子顕微鏡による観察であり,電子顕微鏡では,BS,EBSD, EDS, CLを用い,石英の結晶方位マップ,組成マップ,微量組成画像などを取得した.この電子顕微鏡観察では操作技術に長けたKilian Rudiger研究員の協力を多く得た.また,本破砕帯の特徴となる石英ブロックの結晶塑性変形について,本分野を特に専門としているMichael Stipp教授の協力のもと,確実に結晶塑性変形が起こっていることを確認した.その結果,破砕帯には発熱に関連すると思われる脆性破壊と遅い変形を示す塑性変形が混在し,脆性破壊が繰り返すステージを持つことが明らかとなった.特に高温で促進される石英の塑性変形は,局所的な発熱に関連している可能性があり,かつその変形は遅い変形であることから,遅い変形でかつ発熱するようなイベントであったことが示唆される.これはスロー地震に関連した変形機構である可能性がある.今後の課題として,このような塑性変形とブロック中の脆性破壊の共存関係をより定量的に規制するために有限要素法によるモデリングを考えており,新たにイタリアのPaola Vannucchi教授との共同研究に着手した.彼女はMichael Stipp教授とも懇意であり,新たな共同研究の枠組みを作っていきたいと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
帯磁率異方性による歪みの発展と変形機構の関係を明らかにしたのみならず,同破砕帯の局所的な発熱の記録を得たことは,これまでにない全く新しい成果である.このことが,変形機構の理解のための微細組織観察の結果に大きな意味を与えることになる.さらに,古応力解析・流体包有物による流体圧・岩石破壊理論を組み合わせることで,岩石の引張強度,形成深度,差応力,流体圧比を推定することが可能となった.これらの情報を総合することによって,ブロックが基質に取り込まれる不均質な組織の有限要素法モデルによって,天然の条件に合致する物理状態を検証することが可能となる.このアイデアを持って,モデリングの論文を公表しているPaola Vannucci教授との共同研究を打診し,実施する段階へ漕ぎ着けた.ここまでの国際共同研究の発展は,コロナ禍で開始した実施当初は全く想定できなかった.よって,本研究課題の進捗状況について,自己点検による評価は,上記の通りとした.
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今後の研究の推進方策 |
今年度はサバティカルを取得し,イタリアのフィレンツェ大学でPaola Vannucci教授と不均質媒体の歪みと破壊のモデリングを実施する.具体的には,ブロックが基質に取り囲まれた組織のブロックと基質にそれぞれ物性を与え,剪断歪を与えたときの応力方位,応力サイズ,歪速度をモニターし,ブロックの引張強度に達するまでの時間の関数を得る.また,環境場は深度と流体圧比で制約する.このような天然の情報に規制された有限要素モデリングは全く新しい試みである.既に新年度にイタリアに滞在し,計画を議論した. また,イタリアにも日本と同様の付加体があり,同様の変形をしており,これまでやってきた手法をそのまま適応できる.イタリアで初めて陸上付加体での古応力解析となり,イタリアの形成テクトニクス研究に一石を投じる可能性がある.さらに,米国ワシントン州のオリンピック山脈でも同様の変形岩を研究しているグループがあり,このグループとも共同研究を進める準備をしている.ブロックが基質に取り囲まれる組織は世界中で一般的であり,沈み込み帯の多様なすべりを担う重要な物質である可能性がある.この形成メカニズムの研究を地質学やモデリング,熱分析などの多くの手法で総合し,国際的に発展させることが,今後の研究の推進方策である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナが5類になった5月以降に長期のドイツ滞在共同研究の調整を始めたため,先方との時期の調整が難航し,実施する内容も変更となったため旅費と実験準備金の両方で残額が生じた.しかし,そのおかげで微細構造の観察に注力することとなり,新たな観察結果を得ることで,興味深い課題へと発展することとなった.今後はこの新たな方向へ舵を切り,フィレンツェ大学との共同研究に繋げていく.今年度はサバティカルを取得し,フィレンツェ大学に長期滞在する予定である.この滞在の一部に充てるとともに,ドイツにもまた訪問予定である.さらに米国のメランジュの研究室とも交流を開始する予定である.
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