研究課題
本国際共同研究は、フランス・コルシカ島に露出する変成岩の地質調査に基づき、温度の低い古いプレートが沈み込む、いわゆる冷たい沈み込み帯におけるスロースリップの実態と発生メカニズムを世界に先駆けて解明することにある。2020年度は新型コロナウイルスの影響で海外渡航ができなかったため、温度の高い新しいプレートが沈み込む、いわゆる暖かい沈み込み帯で形成された長崎・西彼杵変成岩に分布する西樫山メランジュと三重メランジュを対象に地質調査、岩石試料採取、微細構造観察、SEM-EDSとXRFを用いた化学分析を行った。西樫山メランジュでは泥質片岩の曹長岩化で特徴づけられる交代作用により反応帯が形成され、反応帯近傍の緑泥石ーアクチノ閃石片岩に粘性剪断が集中し、交代作用に伴う流体排出に起因して歪み速度が周囲に比べ2桁増加していることを明らかにした。三重メランジュでは緑泥石-アクチノ閃石片岩と塩基性岩の間でカルシウム交代作用が起こり、交代作用に関連して放出された流体が緑泥石-アクチノ閃石片岩の圧力溶解を促進し、剪断変形を局所化させていることを明らかにした。また、国内の変成岩を用いた温度構造の解析を行った。特に暖かい沈み込み帯の代表である三波川変成岩に着目し、四国中央部汗見川地域で採取された126個の泥質片岩について、炭質物ラマン温度計を用いて解析することにより、11 km × 7 kmの広域かつ詳細な変成温度マップを作成することに成功した。さらに得られた温度構造から、過去の沈み込み帯における大陸モホ面近傍での変形様式を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
採択時に既に新型コロナウイルスの影響でフランス・コルシカ島に渡航することが出来ないことが予想されたため、長崎と四国中央部に露出する変成岩を対象に、コルシカ島で実施予定の地質調査(反応帯と粘性剪断帯の記載、測定)と手法適用(炭質物ラマン温度計を用いた変成温度条件の推定)を実施した。その結果、交代作用に伴う反応により粘性剪断時の歪み速度が大きく増加していること、温度構造に基づく大陸モホ面付近での変形様式が明らかとなった。これらの成果は、今後コルシカ島の変成岩を対象に地質調査、分析・解析を進めていく上でのノウハウ蓄積に役立っている。また、海外共同研究者のAke Fagereng, Francesca Meneghini両博士と研究代表者の氏家が世話人として、2021年4月から5月にかけてオンラインで開催される欧州地球科学連合においてセッション「Subduction zones evolution and slip styles: advances from tectonics, metamorphism and rheology」を立ち上げており、互いの研究成果の交換と国試共同研究遂行に向けた議論を活発に行なっている。
2020年度に長崎・西彼杵変成岩で得られた研究成果は、暖かいプレート沈み込み帯深部で発生するスロースリップを説明しうるものである。今後、この研究成果を論文として公表する予定である。新型コロナウイルスの影響でフランス・コルシカ島に渡航する目処は今のところ立っていないが、事前に日本側研究者で研究打ち合わせをする機会を設け、コルシカ島における地質調査、岩石試料採取に関する綿密な計画を立てる予定である。一方、西彼杵変成岩、三波川変成岩を対象とした研究も引き続き継続し、暖かい沈み込み帯における地震発生帯下端側での断層滑りは、交代作用に伴う局所的な粘性滑りの促進に起因したスロースリップの発生でまかなわれ、震源域に応力を載荷・蓄積しうるか、 温度・圧力条件の変化に対応して変形メカニズムがどのように変化することで、摩擦滑り領域からスロースリップ領域へ遷移するのか検討していく予定である。
新型コロナの影響により、フランス・コルシカ島で予定していた地質調査・岩石試料採取が実施出来なかったため、次年度使用額が発生した。2021年度にコルシカ島に渡航し、地質調査及び岩石試料採取を実施する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件)
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