研究課題
初年度はすでに所有している試料を用いて、予察的なデータの収集を行った。特に約29~26億年前のインドダールワール岩体のストロマトライトサンプルの詳細な顕微鏡観察・ラマン分光分析・炭酸塩鉱物の化学分析・炭素酸素同位体・炭質物の炭素安定同位体分析を実施し、以下の成果が得られた。1. 詳細な顕微鏡観察により、炭質物の大きさは球状(2-20μm)、板状(20-50μm)、フィラメント状(50-100μm)と形態により異なり、球状のものは主に方解石粒子内に、板状・フィラメント状のものは鉱物粒界に産出することが明らかになった。2. 形態別の顕微ラマン分光分析を実施したところ、板状に比べ、フィラメント状、球状の炭質物の結晶度は低く、炭素安定同位体値からも有機物の痕跡を確認できた。3. 炭酸塩鉱物の炭素酸素安定同位体比と炭質物のラマン分光分析結果と比較すると、サンプルは2種類に分けられる。酸素同位体が高いサンプル(17-25‰)よりも、酸素同位体が低いサンプル(12-15‰)に含まれる炭質物は、熱水の影響で再結晶化が進み、結晶度が高いということが明らかになった。4. 全岩から抽出した炭質物質の炭素同位体分析の結果は、-7 - -18‰までであり、形態別の同位体分析を今後進めていく予定である。以上の成果から、本研究の目的である「地球上最古の有機物化石の原子構造と炭素同位体解析を行い、生命の起源を解明する」について、形態ごとの結晶度・炭素安定同位体値に関する基礎的なデータを収集することができた。今後実際に採取した試料も合わせてより詳細な地球化学分析を実施し、今後の分析に備える。
3: やや遅れている
本研究の目的は、地球最古の化石を含む岩石の分布地域の地質調査を行い、採取した試料の詳細な地球化学的分析とアトムプルーブ分析のための適切な試料選定が含まれている。しかし世界的な新型コロナ感染拡大のため、すでに所有しているサンプルを用いた予察的なデータの取得に留まっている。また初年度計画していたインドの現地地質調査に関しても次年度に延期することになったため、本研究計画はやや遅れている。
今年度は主にフィールド調査、サンプル選出と基礎データ収集、ナノカーボン粒子の超微細組織観察(国内)、結晶構造解析(オーストラリア)、炭素同位体測定(国内)を行う予定である。新型コロナ感染拡大が徐々に収束し、出入国の制限が緩和され次第、オーストラリア・インドにおいての現地地質調査や大学訪問を行うことを計画している。地球最古の有機物化石を含む岩石の産状と分布、風化変質の程度などを調べるために、オーストラリアの約35億年前のピルバラ地塊の現地地質調査をカーティン大学のFitzsimons教授の協力を得て実施する。現地調査終了後、カーティン大学を訪問し、研究進行に関する具体的な日程及び設備の予約、試料作成に関する打ち合わせを行う。野外調査で採集した試料から詳細な分析や観察するためのサンプルを選出し、炭質物の抽出を行う。前年度に引き続き、今年度前半、現在すでに研究代表者が所有しているサンプル(インドや南アフリカ、オーストラリアの代表的なストロマトライト)を用いて、詳細な分析や観察を行う予定である。後半にはラマン・赤外分光分析および高分解能電子顕微鏡(FESEM, FE-TEM,デュアルビームFIB) を用い、ナノカーボン粒子の鉱物・結晶学的特徴および分子構造について予察的な観察・分析を行う。また全岩及び抽出した有機炭素の同位体比測定を行い、炭質物の形態別の同位体の特徴を明らかにすることで、アトムプローブ分析に適したサンプルの選出を行う予定である。
本研究計画では、初年度にインドの現地地質調査を計画していたが、新型コロナ感染拡大により、調査不可能となった。次年度、新型コロナ感染拡大が収束し出入国の制限が緩和され次第、インドの太古代のシンブン岩体(34億年前)を中心に野外調査と炭質物を含む堆積岩のサンプリングを行う。インド理科大学院大学 (Bengaluru)のSajeev 准教授ならびにインド地質調査所(Kolkatta)のTrisrota Choudhari博士の協力を得て、研究代表者と1名の博士後期課程院生が調査を実施する。
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