研究課題/領域番号 |
20KK0092
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤川 陽子 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (90178145)
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研究分担者 |
谷口 省吾 大阪産業大学, 工学部, 講師 (40425054)
国分 宏城 福島県環境創造センター, 研究部, 研究員 (70792472)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2023-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / 地下水 / 埋立て処分 / 移行 / 福島第一原子力発電所 / チェルノブイリ |
研究実績の概要 |
新型コロナの流行による往来制限のため、現地の共同研究者とZoom会議やメールでの相談を行った。北欧においては、本申請で取り上げた以外にも、複数の放射性物質を含む廃棄物を埋設する処分場が操業を開始しており、現地共同研究者から、本申請における調査先として追加するとよいとの提案を受けた。ウクライナの共同研究者は、過去に現地調査機関(エコセンター)が行った水質分析において、地下水中の懸濁物質由来の放射性セシウム濃度と溶存態の放射性セシウム濃度の弁別ができていない可能性があることを問題視した。現地調査の第一段階として地下水試料20Lの精密ろ過と限外ろ過を行って各々の分析値をえること、またエコセンターによる分析値と他の機関との分析値の比較を行うことが必要と考えた。日本側は、20Lの地下水中にセシウムの特異吸着剤を浮かせて、溶存態セシウムを捕集するパッシブサンプリング方式をとっているが、本方法の更なる改良とチェルノブイリ地域の地下水への適用についても検討することとした。 さらに、本格調査着手後のデータ解析を円滑に進めるための技術開発を行っている。 (1)主成分分析、線形判別分析等の古典的統計解析法、(2) ランダムフォレスト、k平均法、PAM(Partitioning around Medoid)、混合正規分布モデル,ディリクレ多項分布混合モデルによるクラスタリング法、を用いた水質データの多変量解析とデータの特性の抽出ならびに可視化手法の開発を行っている。北欧の共同研究者と情報交換を行って、ボックスモデルによる処分場内ならびに処分場周辺環境における放射性セシウム移行モデルを構築中であり、米国地質調査所のMODFLOWによる地下水流動解析と上記モデルとの連成解析を構想している。写真画像の解析によるデータ抽出についても最近検討を開始した。地下水水質一斉分析法についても改良を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ感染症の流行により、採択当初から海外調査地への渡航や現地調査に困難が生じた。ただし2021年夏までには新型コロナワクチン接種が進み、問題はなくなると予想していた。しかし、2021年4月には研究代表者の勤務する大阪において感染拡大が起こり、調査先のウクライナの共同研究者の居住地のキエフはロックダウン状態であるとの連絡を受けた。ワクチン接種についても当初想定に比べ進んでいない。そのため、現地調査に関しては、想定より半年ほどは遅れる見込みである。 その一方、現地調査で試料やデータが得られた場合を想定し、地下水中の放射性セシウム回収法の改良、地下水等の水質の一斉分析法における改良、各種のデータ解析技術の整備、を行っている。いったん調査が開始されれば、速やかに成果をえて、データを整理できる基盤は構築できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現地調査が可能になった時点で速やかに成果を得られるようにするため、これまでに実施した準備事項に加えて、2021年度上半期において、当面、下記を行う。 (1) 調査先の地下水が多量の懸濁物質を含む場合に備えた前ろ過システムの構築を行う。多量の懸濁物質を含む粒子を含む水であればその精密ろ過(直径0.45マイクロメートル程度の粒子のろ過)はろ材の閉塞が起こるため、困難である。研究代表者は、毛玉加工をしたアクリル繊維ろ材により直径10マイクロメートル程度の粘土粒子を高濃度で含む水が高速でろ過できることを明らかにしてきた。粒子の化学的特性によるろ過効率の変化をさらに検討の上、本技術の適用を検討する。 (2) 地下水中の放射性セシウム濃縮のためのパッシブサンプリングの新技術の検討を行う。セシウム特異吸着材をより高い吸着容量の素材に変えることで最終的に得られる濃縮物の量を減らし、結果として核種分析時のGe半導体検出器の幾何効率を向上させる。また、試料と接する界面の素材を精密ろ過用相当の素材とすることで、懸濁物質の吸着材への付着を皆無にする。一方、界面素材の変化により吸着剤への物質移行が低下する可能性があるので、サンプラーに撹拌子を取り付けるなどの工夫を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症のため、2020年度は調査予定のウクライナ及び北欧との往来が禁止された。また、研究代表者の勤務する大阪が、日本国内の新型コロナ感染拡大地となったことから、大阪府内の出張、県境をまたぐ出張の自粛を求められる期間が長かった。以上の状況により、2020年度は、予定していた現地調査を行わず、本研究で使用するICP質量分析装置の保守を行うとともに、現地調査が可能になった時点で効率よく研究を行えるようなソフトウエアの整備、分析方法の開発に充ててきた。 2021年度後半から末には調査先の北欧もしくはウクライナのいずれかとの往来は可能になると推定する。その時点で、現地を訪問し、予定の調査を開始するために、2020年度予算を繰り越した。
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