研究課題/領域番号 |
20KK0120
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
羽會部 卓 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70418698)
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研究分担者 |
小堀 康博 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (00282038)
婦木 正明 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 助手 (50874442)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | 一重項分裂 |
研究実績の概要 |
一般に、分子の光吸収過程では一光子光学許容状態(1光子吸収→1励起子生成)のみが遷移可能であり、励起状態を介した化学反応の量子収率の最大値は100%である。さらに、分子会合体になると単量体と比較して励起子間の消滅により吸収した励起エネルギーが迅速かつ大幅に失活する。この光化学の重大な問題点の解決策として二分子近接下で1光子の吸収過程から2つの三重項励起子を生成する多励起子生成反応の一重項分裂(SF)が考えられ、三重項励起子の生成効率は200%まで向上する。本年度は一重項分裂において汎用的に用いられる5つのベンゼン環が直線的に縮環したペンタセンよりベンゼン環の数が一つ多いヘキサセンに着目した。ヘキサセンはペンタセンと比べてSFの駆動力(ギブズエネルギー変化)が相対的大きくなることが励起一重項及び三重項状態のエネルギーの理論計算より見積もられている。そこで本研究ではフェニルリンカーで配向性の異なる二量体を複数合成することに成功した。そのヘキサセン二量体の光物理過程を行う上で基礎データとなる定常吸収及び蛍光スペクトルの測定を行った。特に、蛍光スペクトルではヘキサセン単量体と比較して二量体ではいずれも大幅な蛍光消光が観測され、SFの進行を強く示唆する結果となった。また、フェムト秒過渡吸収測定ではヘキサセンのT-T吸収にに対応するシグナルが光励起直後に観測され、SFの進行が確認された。さらに、現在、ピコ秒過渡級測定で三重項励起子対からの開裂過程の測定を行っている。今後、参照化合物としてペンタセン二量体を用いて光物理過程を比較することでヘキサセンの特徴を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の材料合成の鍵であるヘキサセンニ量体の合成と光物性評価に成功したため。また、既存のペンタセンと比べて異なる特徴を有することが明らかになりつつあるため。
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今後の研究の推進方策 |
合成したヘキサセンニ量体の光物理過程を評価し、ペンタセンとの比較を行う予定である。特に、過渡吸収スペクトル測定で温度依存性の評価を行って励起子分裂の開裂過程における物性評価を詳細に進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由はコロナ禍のため、海外渡航とそれに向けた実験準備が一部実施できなかったためである。使用計画としては2021年度に海外渡航が可能となり次第、速やかにタンペレ大に渡航するための旅費とサンプル試料合成に充てる予定である。
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