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2021 年度 実施状況報告書

人工エクソソームに封入したRNAアプタマーによる神経変性疾患治療法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 20KK0126
研究機関京都大学

研究代表者

村上 一馬  京都大学, 農学研究科, 准教授 (80571281)

研究分担者 泉尾 直孝  富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (50722261)
水口 賢司  大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (50450896)
研究期間 (年度) 2020-10-27 – 2023-03-31
キーワードアプタマー / エクソソーム / 神経変性疾患 / 計算科学 / 核酸医薬 / ドラッグデリバリーシステム / αシヌクレイン / 国際共同研究
研究実績の概要

RNAアプタマーは,標的分子に対する高い結合能と選択性を特徴とする.凝集性タンパク質であるαシヌクレイン(αSyn)は,神経変性疾患であるパーキンソン病(PD)の原因物質の一つである.カチオン性の繰返し配列が集中するαSynのN末領域は,凝集に重要な役割を果たすが,抗体では認識されにくいという課題があった.そこで,負電荷が多いRNAアプタマーは,本課題の打開策になりうると考え,本研究では,独自のRNA選抜法とin silico解析法を駆使して,αSynのN末領域特異的なRNAアプタマーを作製し,エクソソームエンジニアリングによってRNAアプタマーによるPD治療法の確立に向けた技術基盤を築くことを目的としている.
今年度は,昨年度までにαSynのN末端を認識するRNAアプタマーの濃縮プールが得られたので、次世代シーケンサーで配列を網羅的に解析した.その結果,複数のクラスター形成が確認された.全配列のクラスターの相同性を解析し,上位20個のクローンを絞りこんだ.配列情報から二次構造を予測し,各クローンの結合能に関するスクリーニングを行った結果,高結合クローンを得た.一方,RNAアプタマーを脳内に送達するための人工エクソソーム作製については,血液脳関門(BBB)透過ペプチドを人工エクソソーム表面に発現させることで,人工エクソソームのBBB透過効率を向上させることを試みた.前年度に構築したプラスミドベクターを用いて,血小板由来成長因子受容体を透過ペプチドのN末端に結合した融合タンパク質を人工エクソソームの親細胞に発現させたが,親細胞の細胞膜表面における透過ペプチドの発現は認められなかった.さらに,PD病理において神経変性が認められる線条体実質に投与されたコントロールRNAアプタマーは,RT-PCR法により明瞭に検出され,脳組織内のRNAアプタマー含量の定量系の確立に初めて成功した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度は,昨年度までにαSynのN末端を認識するRNAアプタマーの濃縮プールが得られたので、次世代シーケンサー(NGS)解析用のライブラリーを作成後,網羅的に配列解析を行った.通常のNGS解析に比べて,配列長が短いアプタマー(約70nt)をライブラリー作成に供するには増幅効率が著しく低く,条件検討に時間を要したが,プライマー種および増幅酵素の最適化を種々行った.本法は今後のアプタマー全配列解読のプロトタイプになり得る.AptaSuiteによる配列解析を行い,クラスター解析および相同性解析から高結合クローンの同定につなげた.さらに,結合サイトの予測を目的として,機械学習のための二次構造解析も一次配列情報から行った.血液脳関門透過ペプチドの細胞膜発現を確認する実験においては,親細胞として使用を予定していたヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞から作製した人工エクソソームをマウスに投与したところ,人工エクソソームの免疫原性に起因すると考えられる運動障害が認められた.これに対して,親細胞をマウス神経芽細胞腫由来のNeuro2A細胞に変更したところ,マウスの運動障害は認められなかった.本事実は,人工エクソソーム構築における親細胞の選択の重要性を示唆するものである.
一方,今年度もCOVID-19の拡大防止措置によって海外渡航が制限されたため,対面の国際交流は困難な状況であった.そのような中,研究協力者のAndrew F. Hill教授(豪州ビクトリア大学)を演者の一人として,日本農芸化学会2022年度大会でオンラインシンポジウム(世話人代表者:村上一馬、シンポジウムタイトル:「機能性核酸の創製と生命科学応用に向けた新展開」)を実施し,聴衆の関心を集めた.以上より,おおむね順調に進展していると判断した.

今後の研究の推進方策

高結合クローンの二次構造(特にG四重鎖構造)の予測を機械学習で行い,立体構造の剛直性に着目するとともに,αSynとのドッキング(複合体モデリング)を行う.これによって,RNAアプタマーによるαSynのN末結合について構造的知見を得る.得られた情報は,RNAの短鎖化と分解耐性の向上を目指す上で有益であることから,塩基配列の最適化も併行して進める.海外渡航制限の緩和状況を判断しながら,研究協力者のGal Bitan教授(米国UCLA)の研究室を訪問し,アプタマーによるαSynのオリゴマー形成抑制能をPICUP法で調べ,またαSyn凝集体の細胞間における伝播能をヒト胚性腎細胞を用いたFRET法で評価することを計画している.血液脳関門透過ペプチドが親細胞の細胞膜表面において発現が認められなかった点の対処法として,大腸菌に産生させた血小板由来成長因子受容体と透過ペプチドとの融合タンパク質を,親細胞のエクストルージョンによる細胞膜の再構成時に添加することによって,「人工エクソソーム表面の透過ペプチド標識」という課題の解決を試みる.得られた人工エクソソームにRNAアプタマーを封入し,野生型マウスに末梢投与することで,脳内デリバリー能が十分か否かを調べる.具体的には,luciferase標識した人工エクソソームを用いたin vivoイメージング実験によって経時的に追跡することを予定している.同時に,脳内デリバリー能におけるアプタマーの濃度効果や滞留時間の変化等の基礎データを得る.さらに,αSynの中央-C末に対する市販抗体との組織染色像を比較することで,本研究の目的の一つでもあるN末が保存されたαSyn蓄積の局在性変化を調べる.

次年度使用額が生じた理由

研究成果としては,「おおむね順調に進展している」と判断できるものであったが,昨年度に引き続き新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の拡大防止措置のため,海外渡航が制限された.この影響により,国際共同研究の交流の点において少なからず支障が生じていることは否定できない.旅費の支出が計画通りに進まなかった点について,次年度は海外渡航制限の緩和状況を判断しながら,現地訪問を含めた対面の研究交流を行い,本研究の趣旨ならびに目的を達成すべく,旅費を渡航ならびに滞在費用に充てることを計画している.

備考

国際共同研究の一環として、日本農芸化学会2022年度大会においてシンポジウムを実施した(世話人代表者:村上一馬、シンポジウムタイトル:「機能性核酸の創製と生命科学応用に向けた新展開」)。研究協力者のAndrew F. Hill教授(豪州ビクトリア大学)が演者の一人を務めた.
URL:https://www.jsbba.or.jp/2022/program_jsbba_symp.html

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2022 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] University of California Los Angeles(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      University of California Los Angeles
  • [国際共同研究] Victoria University(オーストラリア)

    • 国名
      オーストラリア
    • 外国機関名
      Victoria University
  • [雑誌論文] Aptamers targeting amyloidogenic proteins and their emerging role in neurodegenerative diseases2022

    • 著者名/発表者名
      Murakami Kazuma、Izuo Naotaka、Bitan Gal
    • 雑誌名

      Journal of Biological Chemistry

      巻: 298 ページ: 101478~101478

    • DOI

      10.1016/j.jbc.2021.101478

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] アミロイドタンパク質を認識する核酸アプタマーの創製と応用2022

    • 著者名/発表者名
      村上一馬
    • 学会等名
      日本農芸化学会2022年度大会
    • 招待講演
  • [備考] 京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻生命有機化学分野(研究代表者の所属研究室)ホームページ

    • URL

      http://www.orgchem.kais.kyoto-u.ac.jp

  • [備考] 京都大学教育研究活動データベース(村上一馬)

    • URL

      https://kyouindb.iimc.kyoto-u.ac.jp/j/zP8kX

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公開日: 2022-12-28  

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