研究課題
本研究では,イオン輸送体制御化合物の添加による一過的なCa濃度の上昇をモニターする.これまでシロイヌナズナの気孔においてCa変動が生じる原因となるKチャネルの阻害剤の同定を行ってきた.具体的には孔辺細胞で発現しているKAT1もしくはKAT2の内向き整流性Kチャネルを主に中心に検討をすすめてきた.今後は,さらに同じく気孔で発現する外向きKチャネルであるGORKも測定対象として検討する.本研究室がもっている化合物からKチャネル阻害活性を示す候補化合物を,卵母細胞発現系による電気生理学測定により検討を行う.Kチャネル阻害剤が単離された際には気孔Ca測定をCosta教授の研究室で行ってきた.すでに本研究室の大学院生がCosta教授の研究室においてCa動態測定を行っており,この経験を生かして国内でも細胞内Caの測定をすすめる.また,イオン輸送体調節因子のCBL-CIPK複合体の中から,イオン輸送体制御を行う分子を探る.CBL-CIPK複合体はCaと結合して活性化するリン酸化酵素である.複数のプラスミドを酵母に発現させてイオン輸送体の活性化を観察する.遺伝子を共発現させた酵母を用いて,複数のイオン輸送体の輸送活性調節に関わる組み合わせを酵母の生育テストによって検討している.阻害剤の側鎖を置換した類縁体を用いたイオン輸送体活性の影響を電気生理学的手法により検討もすすめている.商品化されている類縁体以外の類縁体は有機合成より新規に獲得する必要があることから,有機化学を専門とする研究者が阻害剤候補分子の官能基置換を行っていただいている.類縁体を用いてKチャネル阻害活性を電気生理学測定によって評価する検討によって,阻害・活性化に関与する側鎖を決定し,強力化した化合物の取得をめざす.
2: おおむね順調に進展している
緑茶成分カテキンの影響をCa指示センサータンパク質を用いてシロイヌナズナの孔辺細胞における細胞内Ca振動を観察した.カテキンガレートとガロカテキンガレートがこのCa振動を抑制することが分かった.孔辺細胞の細胞膜のCaチャネルをパッチクランプ法で検討したところ,優位に電流阻害が観察された.本実験は,Costa教授の研究室に本研究室の大学院生と教員が現地に行って測定した.一方,構造異性体のエピカテキンガレートとエピガロカテキンガレートは細胞内Ca振動を抑制の効果は見られなかった.このことから選択性が高いことが示唆される.また,膜電位変化を検出する指示薬を用いて検出を行ったところ,ABAによる膜電位変化が阻害された.さらに,ABAによって誘導される気孔閉鎖もカテキンガレートとガロカテキンガレートが阻害されることを蒸散量の測定で確認した.気孔閉鎖は,乾燥ストレス以外でも生じることから他の刺激による気孔閉鎖誘導試験も試みた.Pseudomonas syringaeの感染と同じ効果のあるflg22を用いて検討したところ,上記と同様に気孔閉鎖が細胞内Ca振動を阻害することが分かった.ABAを噴霧した植物において気孔閉鎖を誘導させたときにも,サーモカメラを用いた観察により同様の効果が見られた.ABAによって気孔閉鎖を生じさせると葉面温度は上昇するが,カテキンガレートとガロカテキンガレートを同時に処理することで葉面温度は上昇が生じなかった.上記のように,それぞれ別の環境において一致した結果が得られたことから,カテキンガレートとガロカテキンガレートがABAや病原菌感染によって誘導される気孔閉鎖に関わる細胞内情報伝達系を阻害することが示された.カテキンガレートとガロカテキンガレートは緑茶など,古くから飲料・食品として用いられており環境にやさしい植物調節剤が導き出されたこととなる.
気孔開度調節や根の成長に関与する新たな化合物の探索を行う.現在までに行ってきた電気生理学的測定による化合物のスクリーニングをすすめることにより,イオン輸送体活性を調節する化合物の単離をすすめる.さらに,その化合物が植物の生理反応や形態形成にどのような影響を与えるのかを検討する.本申請における共同研究者のCosta教授が開発中の細胞内Ca変動測定法を用いて,同定することとなるKチャネル阻害剤添加時における効果を検討する.さらにこの孔辺細胞のCa一過的上昇の測定方法を国内の本研究室でも測定可能にするように装置の設定や技術の習得をはかる.本申請における共同研究者のSchroeder教授からも国際学会において本研究の結果について助言をもらっており,電気生理的測定の効率化をはかり,さらに効果的な化合物の単離をめざす.気孔の開閉調節に関与するカテキンガレートとガロカテキンガレートと同様な化合物の探索とともに,根の成長に影響する化合物の同定もめざす.乾燥ストレスにおいて地上部における対応の他に,根の部位における植物の対応について検討するための化合物の単離をはかり植物の生理的機構や情報伝達機構の解明と植物の成長と分化の外部からの制御を可能にする化合物の探索をすすめる.
次年度使用の方が有効に使用できると考えられたため.
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巻: 9 ページ: 2201403~2201403
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