研究課題
Caセンサータンパク質(cameleon)を導入したシロイヌナズナを用いてイオン輸送体制御化合物の添加によって一過的なCa濃度の上昇をモニターした.このCaセンサーは孔辺細胞特異的に発現するプロモーターを用いており,気孔開度の変動に応じた孔辺細胞内のCa動態の測定が可能である.この細胞内Ca動態測定の準備をCosta教授の研究室で獲得した結果の再現性を確認するとともに.本研究室においても同様の測定をすすめた.(課題1)イオン輸送体調節因子の複合体の中からイオン輸送体を調節する因子の探索をおこなった.中でもイオン輸送活性が不明のままとなっているシロイヌナズナのイオンチャネルの輸送活性調節に関わる組み合わせを検討した.(課題2)前年度までに取得したイオン輸送体阻害剤の側鎖となる官能基を他の官能基に置換した類縁体を用いて,二電極をもちいた膜電位固定法による電気生理学的測定によりイオン輸送活性の評価を行った.他大学の研究室との共同研究によって有機合成された化合物類縁体を用いた.(課題3)上記で取得したイオン輸送体調節剤をシロイヌナズナのKチャネルであるKAT1の変異株に与えて,イオン輸送体調節剤による気孔の開度の変化を検討した.また,Naの植物内分布を理解する目的で,Na輸送体変異株の22Na吸収・循環・蓄積・排出を調べた.さらに学内の電子線加速器により短寿命42/43Kを製造・精製して,植物内42/43の時間追跡,組織別元素分布を測定して動態を測定した.(課題4)
2: おおむね順調に進展している
イオン輸送体制御化合物を添加するとCa濃度の上昇が生じたが,その上昇パターンはこれまでに報告のないものであった.通常,Ca振動が生じるとともに,ほぼゼロレベルのほどCa濃度が低い細胞内のCaをモニターした.Costa教授の研究室において低浸透圧による細胞内Ca変動が観察され,イオン輸送体制御化合物とは異なるCa動態パターンであることが分かった.植物のCaチャネルで同定された数は限られており,未知のCa輸送体が本反応に関与している可能性が示唆された.(課題1)Kチャネルを調節するリン酸化酵素の探索を行ったところ,複数のリン酸化酵素がKチャネルの調節に関与することが分かった.このリン酸化酵素はこれまでに報告のある分子とは違い報告がなされていない新規のリン酸化酵素である.発現組織や時期の解析を行うことで植物内においても本リン酸化酵素の関与を調べている(課題2)有機合成によりイオン輸送体阻害剤鎖を置換した類縁体を用いて,電気生理学的計測によるイオン輸送活性の測定を行った.元の化合物よりも阻害度が上昇する化合物は見いだせなかった.一方,阻害度の残存性の高い化合物が見いだされた.(課題3)KAT1の変異株にイオン輸送体調節剤を与えた際に,気孔の閉鎖が誘導されなかった.標的となるKチャネルの阻害が生じなかったことが考えられる.22Naを吸収した植物のイメージングを調べたところ,変異株では地上部にNaが蓄積した.42/43Kを植物に与えたところ,Naと同様の蓄積は観察されなかった.(課題4)
CCa動態に関して結果が得られつつある.さらに詳細なデータを取得するために,Costa教授の研究室で行うことができる高精度の分析を目的とするイオン輸送値調節剤が誘導するCa動態の測定をすすめる.コロナ禍で共同研究が容易ではなかったSchroeder教授の研究室で行われている外液浸透圧変動に夜Ca振動法を習得して,膜電位を調節するKチャネルと膜電位変化に応じて調節されるCaチャネルの相関関係の取得を行う.さらに,Caの上昇の原因となる他の元素分析をすすめる.PIXE法元素分析を行っているが,植物の試料の調製法の改良が必要であることから,様々な資料で検討する.また,現在は測定と観察は真空中で行っているが,細胞内の水分の他に元素の流出・漏出の可能性もある.大気中における植物試料を観察することをめざして装置の改良と観察法の検討を行い,より自然で実態に近い状態の植物の測定をすすめる.前年度までに気孔で発現する外向きKチャネルであるGORKの構造解析のために,結晶化をすすめており本年度は構造解析結果の取得を行う.KAT1と相互作用するが,類縁チャネルのGORKに相互作用しない特異性の高い化合物の獲得を目標に構造情報の習得を試みる.
コロナ禍により遅延した共同研究先のCosta教授およびSchroeder教授との共同研究を2024年度に行うこととなった.
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