研究課題/領域番号 |
20KK0138
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
犬飼 義明 名古屋大学, 農学国際教育研究センター, 教授 (20377790)
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研究分担者 |
黒川 裕介 名城大学, 農学部, 助教 (60851798)
土井 一行 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (80315134)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | イネ / 高温障害 / 出穂遅延 / 間断灌漑 |
研究実績の概要 |
異常高温がイネの出穂時に重なることで不稔が生じ、深刻な収量の低下が誘発されるため、アジア各国の研究者が高温不稔耐性に関わる有用形質の解明に取り組んでいる。一方、さらなる温暖化に備え、高温のピークと出穂時期の重なりを回避できる新技術の開発も必要不可欠である。そこで本年度は昨年度に引き続き、節水栽培下(間断灌漑下)にて出穂期が変動する系統の選抜、および出穂変動のメカニズムを調査した。 野生稲および栽培イネの染色体断片を持つ染色体断片置換系統群を含む約300系統を節水栽培下にて育成し、出穂期を調査した。その結果、節水栽培(落水)の開始時期が異なると同一系統において出穂期が変動したため、選抜系統において出穂期の遅延を誘導するには、少なくとも出穂30日より前に地下水位を低下させることが必要であった。一般に、シビアな乾燥ストレスは出穂を遅延させるが、節水栽培による軽微な乾燥ストレス下では、多くの系統で出穂が早まる傾向が確認された。節間長および穂長を経時的に計測した結果、節水栽培により幼穂分化が促進され、湛水下と比べ節間および穂が早く伸長を開始した。さらに、AWD下では湛水下よりも早い時期に花成促進遺伝子の発現が誘導されていた。この結果から、多くの系統では節水栽培により花成誘導が促進され、出穂期が早まったと考えられた。一方、少数の系統では逆に出穂が遅延する傾向が認められ、水管理により出穂期が変動する新たな系統の選抜が可能であった。 さらに約2000系統からなるNAM集団を材料に解析を行い、出穂遅延に関わる遺伝子座を複数見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度までの渡航制限のため、web上での打合せを通じて材料の輸出入や現地での圃場栽培試験を慎重に進めてきた。しかし、適切な時期におけるデータの取得や遺伝子解析のためのDNA/RNA抽出を目的としたサンプリングが困難な場合が生じ、研究計画の遂行が大きく遅れていた。一方、本年度からは徐々に回復してきており、適切なデータの取得やサンプリングが可能となってきている。そのため、遅れを少しずつ取りもどすことができつつあり、今後も渡航制限は生じないとする見通しもたってきていることから「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、以下のI~IIIを海外の研究者グループの研究拠点であるフィリピン稲研究所等に研究代表者らが直接出向き、国際共同研究として実施する。 < I.水管理により出穂期を制御できる新規QTLの同定とアクセッションラインの評価>海外共同研究者の協力の下、遺伝解析用系統をフィリピン稲研究所の節水栽培圃場にて育成し、全系統の出穂日を調査する。次に、処理区間での出穂日の差を系統毎に算出し、これをもとにアソシエーション解析による目的QTLの検出を試みる。 < II.検出QTLsの有用性、ならびにCSSLおよび選抜アクセッションラインの評価>上記にて検出されたQTL領域の染色体断片を持つCSSL同士を交配してF1種子を取得後、さらに他のQTL領域を有するCSSLと交配していくことで、複数のQTLを合わせ持った蓄積系統を作出する。本QTL蓄積系統、ならびに前年度に選抜された有望系統を強度や時期の異なる落水処理を行いつつ、3ヶ国にて育成する。この際、出穂遅延能や他の農業形質を精査することで、これら育成・選抜系統の有用性を評価するとともに、その能力を十分に発揮できる水管理技術を確立する。 < III.間断灌漑により誘導される出穂遅延機構の解明>出資遅延を支配するQTLの単離に向け、まずはそのマッピング材料を日本にて準備する。次に、これらをフィリピン稲研究所にて大規模に展開し、異なる水環境下での出穂の差を系統毎に算出する。同時に、これらの葉からDNAを抽出し、日本へ送付後に遺伝解析を行う。最終的に、これらの遺伝子型と現地出穂期データを用いた大規模連鎖解析により、候補QTLを同定する。一方、その翌年の栽培時には、葉から経時的にRNAを抽出し、既知出穂関連遺伝子群の発現解析等を通して、本候補QTLによる出穂遅延機作を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度まではコロナ禍にあり、海外渡航が非常に困難であったため、旅費や現地にて執行予定であった物品費を計画どおりに使用することができなかったため、次年度使用が生じた。現在は緩和されているため、次年度には今年度までの遅れを取り戻すよう早急に現地に赴き、栽培試験の準備を迅速に進め、予算を計画的に使用する予定である。
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