研究課題
モンゴルの遊牧社会には、牧草地を効率的かつ保全的に利用する伝統的な社会規範が存在するが、市場経済の発展とともにそうした規範は変容しつつある。本研究は、季節的に放牧地を移動する規範と自然災害のときに他の地域から移動してくる牧畜民を受け入れるという草地利用に関する社会規範がどのように変化しているかを解明するものである。牧畜に関する文化人類学、社会心理学の分析手法、牧地民の規範に関する行動経済分析により、市場経済の発展が、草原の保全的な利用に関する遊牧民の規範意識に及ぼす影響を推計する。牧畜民の世帯調査の結果、市場経済の発展により、牧畜民の道徳規範が変わり、それにより季節移動の社会規範の順守が低下していることが明らかになった。また、災害地域から避難してきた牧畜民を受け入れる行為において、明らかな互助規範が認められた。郡レベルのデータを用いた経済分析、牧畜民のランダムサンプリング調査による心理学分析、牧畜民世帯での滞在型調査による人類学調査のすべてのアプローチで同様の結果を得た。また、こうした互助に関する社会規範もまた、市場経済の発展とともに薄れていく傾向があることが示された。以上から、市場経済の発展により、牧草地の持続的な利用を促す規範はしだいに守られなくなり、また、牧畜民の災害リスクが増加する可能性があるため、将来的に政策的な関与が必要になることが示唆される。なお、本科研費では、オンラインの国際ワークショップや対面式の国際ワークショップが開催され、分野横断的な研究成果の取りまとめと本研究の展開に関する議論が行われた。本研究により、牧畜民の社会規範や道徳規範、互助規範が効率的かつ持続的な草地利用に影響することが確認された。こうした成果は、自然資源管理の規範の役割に関する研究の発展に貢献し、また、今後の規範をベースにした草原の持続的保全政策に貢献することが期待される。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 5件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件)
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