研究課題/領域番号 |
20KK0151
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中尾 亮 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50633955)
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研究分担者 |
佐々木 東 北海道大学, 獣医学研究院, 講師 (00754532)
邱 永晋 国立感染症研究所, 安全実験管理部, 主任研究官 (00760985)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | 共生微生物 / 人工吸血 / マイクロビオーム / マダニ / マダニ細胞 |
研究実績の概要 |
世界的に広く用いられているマダニ細胞(ISE18やIRE/CTVM19など)では、核型解析により染色体の異数性が観察されている。そこで、染色体数の異常を人工的に誘因することで、マダニ細胞の高増殖化を目的に試験を行った。フタトゲチマダニ(高知株・単為生殖系統)、キチマダニ(野外株)、ヤマアラシチマダニ(野外株)をウサギ吸血試験に供し、飽血マダニ個体を回収した。マダニ発育卵を材料に乳剤を作製し、培養開始時点に染色体分裂阻害物質を培地に添加し、培養を開始した。経時的に培地交換を行い、培養を維持している。 マダニ人工吸血システムの構築のため、シリコン膜、吸血ユニットの改良を行った。さらに、過去に文献報告のある複数の化学物質(0-ニトロフェノール、サリチル酸メチル等)の吸血誘引物質としての有用性を検証した。その結果、75マイクロメートル厚のシリコン膜を用いた際に、マダニの膜への吸着が最も多く観察された。吸血誘引物質を添加する試験においては、マダニ吸血における有意な差はみられなかった。また、動物(ウシ、イノシシ、ヒグマ)の皮膚材料から、有機溶媒(ヘキサン、酢酸エチル、メタノール)および水を用いて抽出液を回収した。オルファクトメーターによるマダニ誘引試験を行ったが、いずれの抽出物もマダニ誘引活性は観察されなかった。これら一連の吸血試験は、合計9種の異なるマダニ種を用いて行った。人工吸血試験に用いるマダニ種により、吸着率に差がみられたことから、マダニ種ごとに最適な吸血条件が異なることが予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の報告では、マダニ細胞が株化され、高い増殖性を持つには、初代培養後数ヶ月から数年単位の期間が必要とされており、継続的に培養を続けている。今年度新たに用いた染色体分裂阻害物質の影響は、核型解析に用いるサンプルがないために評価できていないが、まとまった数の細胞が増殖した後に実施できる。昨年度から引き続き、マダニのハウスキーピング遺伝子の発現を検出できるRT-PCR系により、細胞ロットの選抜・維持管理を効率的に実施できる体制である。 人工吸血システムに関しては、75マイクロメートル厚のシリコン膜を用いたユニットで、一定程度のマダニの吸血が確認されている。いまだに飽血に至った個体は得られていないが、吸血維持に向けた条件検討に入ることができる状況にある。 以上のことから、おおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
マダニ細胞作出に関しては、染色体分裂阻害物質の影響解析に加え、腫瘍化因子の導入などにより、増殖の高速化を目指す。 人工吸血試験では、吸血維持条件の最適化に向け、吸血ユニットを配置する装置の構造、吸血ユニット内の環境条件の検討を中心に研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究立案段階では、ドイツ・ベルリン自由大学および英国・リバプール大学への渡航を計画したが、新型コロナウイルス感染症の流行により、海外渡航制限が生じたため次年度使用額が生じた。今後の使用計画としては、新たに課題となったマダニ細胞に共生する微生物の解析費用に充てる。
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