研究課題/領域番号 |
20KK0152
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
西川 義文 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 教授 (90431395)
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研究分担者 |
渡邉 謙一 帯広畜産大学, 畜産学部, 助教 (10761702)
二瓶 浩一 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (40373344)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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キーワード | トキソプラズマ / ワクチン / モンゴル |
研究実績の概要 |
モンゴルでは様々な家畜感染症が発生しており、家畜疾病に対する予防・対策のニーズは高く、早急な対応が必要となっている。特に家畜における繁殖障害は経済的な損害が大きく、これに関連する病原性原虫としてトキソプラズマの存在が示唆されている。そこで本研究では、モンゴルの重要な家畜資源である小型反芻獣に着目し、トキソプラズマ感染に対する新しいワクチンの開発を目指す。モンゴル由来原虫株を分離し、細胞スクリーニング法による免疫刺激型抗原の同定、プロテオームによる自然感染動物で認識される感染認識抗原の同定を進め、これら抗原を組み合わせたカクテルワクチンの開発を進める。さらに、遺伝子破壊原虫の解析で新規ワクチン抗原の機能を理解し、小型反芻獣への感染実験を通じて新規ワクチンの効果と防御免疫反応の詳細を明らかにする。これまでに以下の研究課題を実施した。 【モンゴル原虫株の検出と分離】前年度に引き続き、トキソプラズマ感染と流産が発症している対象地域の遊牧民・農家の協力を得て、ヒツジとヤギの流産胎仔サンプルを収集した。遺伝子検査を実施し、トキソプラズマの遺伝子を検出に成功した。 【ワクチン用抗原の同定】前年度に同定した宿主免疫を活性化させるトキソプラズマ遺伝子TgGRA7, TgGRA14, TgGRA15について、ビタミンEと脂質ナノ粒子を使用したDNAワクチン用の発現プラスミドを構築した。TgGRA15についてはDNAワクチンを作製し、マウス感染実験モデルにて、TgGRA15を用いたDNAワクチンの感染防御効果が確認された。感染認識抗原の同定を継続し、トキソプラズマの分泌器官であるロプトリーからヒト血清に反応する抗原を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【モンゴル原虫株の検出と分離】前年度と同様に、対象地域の遊牧民・農家の協力を得て、ヒツジとヤギの流産胎仔サンプルを収集した。モンゴル生命科学大学・獣医学研究所にて遺伝子検査を実施し、トキソプラズマの遺伝子を検出に成功した。この結果により、モンゴルにおいてトキソプラズマ感染と流産の発生の関連性が示唆された。 【ワクチン用抗原の同定】前年度に同定した宿主免疫を活性化させるトキソプラズマ遺伝子TgGRA7, TgGRA14, TgGRA15から、TgGRA15についてビタミンEと脂質ナノ粒子を使用したDNAワクチンを作製した。マウスの感染実験にて感染防御効果を検証したところ、対象マウスの生存率は30%であったのに対し、ワクチン接種マウスの生存率は90%であり、極めて有効な結果を得ることができた。また、感染認識抗原の同定のため、トキソプラズマの分泌器官であるデンスグラニュルおよびロプトリーの遺伝子を導入した細胞ELISA系により、ヒト血清に反応する候補抗原を追加で1種類選定した(前述以外の抗原で合計5種類)。 以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は以下の研究課題を実施する。 【モンゴル原虫株の病原性解析とワクチン用抗原の機能解析】同定した各種抗原の組換えタンパク質を大腸菌発現系で作製する。免疫刺激型抗原をマウスのマクロファージ、ヤギやヒツジの末梢血リンパ球へ作用させ、細胞増殖や炎症性サイトカイン産生(IL-12、IFN-gなど)を指標に活性化レベルを測定する。次に感染認識抗原のELISA系を構築し、マウス、ヤギ、ヒツジの感染血清に対する反応性を測定する。上記の解析で反応性の高いものを選択し、モンゴル原虫株を使用して遺伝子編集技術CRISPR-Cas9による遺伝子破壊原虫株を作製する。作製した遺伝子破壊原虫について細胞侵入能・脱出活性能、増殖率のin vitro性状解析を行う。さらに非妊娠マウスおよび妊娠マウスを用いた感染実験により、マウスの生存率・出産率と組織の病理組織学的、免疫組織化学的解析を実施し、遺伝子破壊による原虫の病原性の変化を解析する。病原性に差が認められた原虫株については感染細胞のトランスクリプトームを行い、原虫遺伝子及び宿主遺伝子の発現変動を解析することで抗原の機能を推定する。また、ヒツジおよびヤギの感染実験における病態解析に使用するため、組織から原虫遺伝子を検出するin-situハイブリダイゼーション法を確立する。 IVMの大型動物感染施設において、小型反芻獣の感染実験を実施する。分離されたモンゴル原虫株の動物種に対し、妊娠85~100日にモンゴル原虫株(1,500原虫/kg)を皮下接種する。分娩期(妊娠150日頃)まで経過観察を行い、流産の有無を確認する。流産後あるいは分娩後に解剖を行い、各組織の病理組織学的、免疫組織化学的解析を実施する。各組織中の原虫数を定量PCRや前述のin-situハイブリダイゼーション法で解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大のため渡航予定であったモンゴルでの調査旅行が中止となったため、旅費を使用しなかった。今年度のモンゴルでの調査旅行に使用する予定である。
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