研究課題/領域番号 |
20KK0167
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
二階堂 雅人 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (70432010)
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研究分担者 |
長澤 竜樹 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (60782828)
高橋 鉄美 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 教授 (70432359)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | シクリッド / 平行進化 / 祖先多型 / フェロモン |
研究実績の概要 |
本研究計画では「全ゲノム比較解析」に基づく適応遺伝子の網羅探索に加えて、より具体的に「唇の肥大化」に関わる平行進化メカニズム、「V1Rフェロモン受容体」による種分化、をテーマに掲げ、これらが祖先多型によって説明しうるかを検証することを目的としている。国際共同研究相手としてスイスのSeehausen博士、タンザニアのKimireiおよび Mzighani博士、そして米国のKocher博士を選定している。初年度から海外渡航が厳しい状況となったため、国際共同研究相手の諸氏とは、Zoom、メールを用いて研究内容に関する詳細な打ち合わせを進めている。Seehausen博士と推進するV1Rに関しては、全ゲノムが報告された東アフリカ産シクリッドおよび南米産シクリッドを対象に、その塩基配列を網羅的に単離することに成功し、現在は大量の配列データのアラインメントと系統樹構築をおこなっている。Kocher博士とは、ビクトリア湖産シクリッドの性決定領域決定に関わる共同研究のため、我々が採取したシクリッド野生個体のサンプルを個体情報とともに送付した。Kocher研究室にて解析は進められており、順次論文としてまとめる予定である。タンザニア水産研究所のKimirei博士とは、今年度中の野外調査の実施を目指して、時期や方法に関わる詳細を打ち合わせているところである。唇肥大化メカニズムに関わる遺伝子の探索や、前年度において論文を発表した祖先多型(SGV)に関わる研究も、データ量や解析種を増やしさらにその起源について深く議論するためのデータを集めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
V1R受容体に関しては、80種を超えるシクリッドの全ゲノム配列から、6コピーあるV1R遺伝子を網羅的に単離するスクリプトを作成し、それを用いた網羅単離と種間比較を進めているところである。このスクリプトにより迅速なSNPs抽出や系統・進化解析が実現し、これはV1R以外の遺伝子にも応用できるようになった。これにより、V1R1~V1R6における進化の全貌が南米から東アフリカ全体を見通して理解できるようになった。これは最終年度までに論文化を目指したいと考えている。祖先多型に関しては、これまでにSGVがタンガニィカ湖シクリッドの放散イベントより古くに遡ることを示してきたが、さらに興味深いことに、これらの多様性が大きく2つ(3つや4つでなく)のアリル型に大別できることが分かった。これは東アフリカ産シクリッドが実は2つの大きな系統の交雑を起源とする可能性を示唆していると考え、このためのデータを鋭意集めており、それを示すための解析方法を検討している。また、ビクトリア湖産シクリッドの全ゲノムレベルでの種間比較解析を進めていたところ、その1種であるHaplochromis sp. matumbihunterが過去に強いボトルネックを経験していることが明らかとなり、これはビクトリア湖にナイルパーチが移入されるよりもずっと古い時代であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
V1Rに関しては、進化的に興味深い遺伝子と種がほぼ特定されたので、まずはこれらを論文としてまとめていく予定である。また、この受容体についてはリガンド候補を絞った上でSeehausenとともに実際の行動実験を進めていけるように、協議を進めていく。SGVに基づいた東アフリカ産シクリッドの起源や、唇の肥大化に関わる遺伝子については、鋭意データを積み重ねていくことで論文化ができるようにする。Haplochromis sp. matumbihunterに関しては投稿に向けて現在論文を執筆しているところである。また、この種の特殊は特殊な生態をもつことも分かっているため、この責任遺伝子の探索も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的なコロナウィルス感染者の増加のため、海外渡航が難しかったため、外国旅費については次年度に繰り越すこととした。ただし、海外渡航が難しかった研究打ち合わせの多くはZOOM会議等で行ったため、海外研究者との意思疎通は問題なく進められている。
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