研究課題/領域番号 |
20KK0167
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
二階堂 雅人 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (70432010)
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研究分担者 |
長澤 竜樹 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (60782828)
高橋 鉄美 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 教授 (70432359)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | シクリッド / ゲノム比較 / 平行進化 / 祖先多型 |
研究実績の概要 |
本研究計画では「全ゲノム比較解析」に基づく適応遺伝子の網羅探索に加えて、より具体的に①「唇の肥大化」に関わる平行進化メカニズム、②「V1Rフェロモン受容体」による種分化、をテーマに掲げ、これらが祖先多型によって説明しうるかを検証することを目的としている。また、特定の器官や遺伝子に焦点を絞らずに、③全ゲノム比較によるデータ駆動型研究も進めている。加えて、④ビクトリア湖産シクリッドにおける性決定領域に関して共同研究を進めている。初年度から海外渡航が厳しい状況となったため、国際共同研究相手の諸氏とは、Zoom、メールを用いて研究内容に関する詳細な打ち合わせを進めている。①に関しては炎症反応と唇の肥大化が関わっている可能性が示唆されており、現在も鋭意研究を進めている。②に関しては昨年に引き続いて大量ゲノムデータからSNPを抽出するソフトウェアを開発する途上にある。③については、以前より我々が着目する卵稚魚食の種について、その系統的な起源や集団サイズの縮小に関わるデータが揃ったため、内容を論文化しているところである。④についてはビクトリア湖産シクリッドの性決定に関して1報の論文を発表した。今年度は特に進展があった②および③を中心に「現在までの進捗状況」でまとめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①に関して、我々が着目しているmagp4遺伝子が魚類では直接エラスチンに関わらない可能性を示唆するデータが得られており、逆に細菌感染への防御に関わる免疫システムとして機能する可能性が出てきたため、現在はそれについて検証する実験を進めている。②については、大量のゲノムデータからSNPsを網羅的に単離するプログラムを作成し、それをGitHub上に公開した。また、それによって得られた大量のデータの中から特にV1R遺伝子に着目したものを、鋭意論文化しているところである。また、実際にシクリッドのV1R受容体がシクリッドの尿に含まれる化学物質を受容することを検証する実験系をあらたに構築することに成功した。これによりシクリッドV1R2がシクリッド尿中に含まれる4HPAAを受容する可能性が示唆された。この内容は国際誌「Journal of Experimental Biology」に発表した。③についてはビクトリア湖産シクリッドの中でも特徴的な生態をもつHaplochromis sp. matumbihunterが過去に強いボトルネックを経験している可能性が示唆されたため、全ゲノム規模での網羅的な解析を進めた。その結果、この種の系統的起源やボトルネックのタイミングなどが詳細に明らかとなり、この種がビクトリア湖内で他の種と分岐後に卵稚魚食性を獲得し、その後の外来種ナイルパーチの移入により個体数を激減させたことが明らかとなった。この成果については論文執筆を終えてBioRxivへの投稿をするタイミングである。④については、我々が飼育するH. sauvageiの家系を一部使用して、ビクトリア湖産シクリッドの性決定領域が明らかとなり、これは国際誌「Genes」に発表された。
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今後の研究の推進方策 |
①については、炎症と真皮の肥厚の関連性をどのように見出していくか、これだけに焦点をあてて研究を進めていく。②について、祖先多型に関しては、これまでにSGVがタンガニィカ湖シクリッドの放散イベントより古くに遡ることを示してきたが、さらに興味深いことに、これらの多様性が大きく2つ(3つや4つでなく)のアリル型に大別できることが分かった。これは東アフリカ産シクリッドが実は2つの大きな系統の交雑を起源とする可能性を示唆していると考え、このためのデータを鋭意集めており、それを示すための解析方法を検討している。④については、我々が引き続き、共同研究者のKocher博士に我々が水槽内で飼育しているビクトリア湖産シクリッドの家系のfin clipを送付し、性決定領域の特定に関わる解析の進展を支えられるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績にて報告したサブテーマ①「唇の肥大化に関わる平行進化メカニズム」について,当初予測していたメカニズムと異なるメカニズムの存在が示唆されたため,検証のため実験計画を作り直す必要が生じたが,再検討のため今年度後半まで時間を要したため,必要な試薬の購入が間に合わなかった。来年度は,この実験を進めるため,免疫染色や遺伝子発現解析に必要な試薬を追加購入する予定である。
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