研究課題
本研究計画ではビクトリア湖シクリッドの「全ゲノム比較解析」に基づいた適応・種分化遺伝子の網羅探索を実施し、その候補遺伝子が包含する変異が、東アフリカ三大湖シクリッドの系統樹において、起源の古い祖先多型に由来することを示すことにあった。加えて、「唇の肥大化」や「V1Rフェロモン受容体」を実際の適応例に掲げ、これらが祖先多型によって説明しうるかを検証することを目的とした。最終年度には共同研究相手のタンザニア水産研究所を訪問し、ビクトリア湖の野外調査により必要なシクリッドサンプルの採集をおこなった。研究内容としては、かねてより集団サイズが小さく遺伝的多様性が極度に低いことが予備データとして得られていたビクトリア湖の卵稚魚食性シクリッド「マタンビハンター」のゲノムワイド集団遺伝解析を実施した。その結果、マタンビハンターにおいて、過去に急激な集団サイズが縮小したことが推定値として示され(ボトルネック現象の検出)、これはナイルパーチがビクトリア湖に移入され、環境破壊が報告された年代(1970年台)と一致することが分かった。系統解析によるとマタンビハンターは同じ食性に属する他のシクリッドと単系統群を形成することが分かったが、ボトルネックが確認されたのはこのグループではマタンビハンターだけであった。これは同じ食性をもつグループにもかかわらず、ナイルパーチの影響の受けやすさに差があることが興味深く、これは保全対象種を選別する際にはゲノムレベルでの集団サイズ推定が有用な判断材料になることを示している。この成果は米国の分子進化専門誌であるMol. Biol. Evol.に受理されている。また、祖先多型に由来するフェロモン受容体V1R2については、そのリガンド探索の基盤となる実験系を構築するところまで到達し、これについては英国の比較生理学専門誌のJ. Exp. Biol.に受理・発表された。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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