研究課題/領域番号 |
20KK0168
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
安房田 智司 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60569002)
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研究分担者 |
堀田 崇 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD) (70875088) [辞退]
福田 和也 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 助教 (20882616)
守田 昌哉 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (80535302)
幸田 正典 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70192052)
十川 俊平 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 研究員 (70854107)
伊藤 岳 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 特任助教 (10908429)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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キーワード | 婚姻形態 / 子育て / 協同繁殖 / カワスズメ科魚類 / 中枢神経基盤 |
研究実績の概要 |
本研究では、アフリカ・タンガニイカ湖産カワスズメ科魚類の協同繁殖種を対象に、野外調査、水槽実験、遺伝子実験と脳生理学実験から、(1)協同繁殖種の生態解明と進化要因の特定、(2)協同繁殖グループの「顔認知」に基づく個体識別と親子間の音声シグナル、(3)多様な婚姻形態を維持する中枢神経基盤を解明することを目的とする。 2021年度に引き続き、2022年度も海外渡航ができなかったため、これまで取り組んできた生態情報が乏しい3種を中心に野外観察データの分析およびDNAを用いた血縁解析を行った。砂地に生息する2種Lepidiolamplorogus sp. “meeli-boulengeri”とNeolamprologus multifasciatus、深場の岩礁域に生息するN. bifasciatusとN. savoryiは2021年度の解析の結果、全て協同繁殖であることが分かっている。2022年度はデータ分析と執筆を精力的に行い、2報は学術論文に掲載、1報は近々、受理される予定である。また、協同繁殖魚も含めタンガニイカ湖産魚類では、種によって子がお互いを攻撃し合う「きょうだい間闘争」が見られる。これらの種では主に、親元に留まり、餌と安全を確保するためにきょうだいが闘争していることが初めて明らかになり、1報は学術雑誌に掲載された。 水槽での実験も大きな成果が上がり、協同繁殖魚の繁殖個体がヘルパーを「罰する」ことを初めて証明し、現在、学術雑誌で投稿中である。また、協同繁殖魚の対戦相手を記憶する日数に関する研究は、学術論文として公表した。2021年度までに、本研究で初めて、タンガニイカ湖産シクリッドで協同繁殖が5回平行進化したことが明らかになったが、これらをまとめた系統種間比較の論文は、国際共同研究として、論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究内容の(1)協同繁殖種の生態解明と進化要因の特定については、これまでの研究の蓄積もあり、予定していた4種のうち3種の社会構造と協同繁殖の実態を概ね明らかにできた。新型コロナウイルスの蔓延でタンガニイカ湖での野外調査ができなかったものの、予定通り、2021年度は執筆活動を中心に行い、学術論文に掲載済みか投稿中が大部分となったので、全体として大きな進展があったと言える。今後、海外渡航が可能になり次第、3種の協同繁殖に関係した仮説を操作実験などにより解明していく。また、Julidochromis marlieriにおける古典的一妻多夫についても、操作実験、親子判定や血縁推定を大規模に進めることで世界で初めて証明にできる。 研究内容の(2)協同繁殖グループの「顔認知」に基づく個体識別については、カワスズメ科魚類だけでなく、グッピーやイトヨでも顔の個体変異に基づいて個体識別を行っていることが証明されたことで、魚類における「顔認知」の一般性が示された。親子間の音声シグナルについては、進展が遅れているが、水中マイクで録音する予備実験を行い、今後本格的に実験する段取りとなっている。 研究内容の(3)多様な婚姻形態を維持する中枢神経基盤については、水槽内で一夫一妻と共同的一妻多夫の異なる配偶システムを作成できるJulidochromis transcriptusと協同繁殖研究が最も進んでいるNeolamprologus pulcherを飼育し、実験を始めた。これら2種の脳を取り出し、脳地図の作成が進行中である。現在、飼育実験を進めており、社会行動に関係して活動が見られる脳領域の比較などを行う予定である。 以上のように、本申請課題の中心である野外調査ができていないが、協同繁殖種の生態解明と進化要因の特定、認知実験については大きな進展があり、概ね順調に研究が進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
海外渡航が可能になり次第、ザンビアに渡航し、タンガニイカ湖で野外調査を行う。6月から12月の調査計画を予定している。また、ドイツのマックス・プランク研究所に渡航し、国際共同研究者と水槽実験を行う。水槽実験は、引き続き大阪公立大学でも実施する。 (1)社会構造や協同繁殖の実態がある程度明らかになった3種については、野外操作実験により、繁殖場所や隠れ場所となる巻貝の空殻の数を操作し、繁殖個体やヘルパーの行動に与える影響を調べる実験を行う。また、N. bifasciatusについては、新たに野外採集を行い、血縁解析を実施する。また、未調査のN. buescheriについては、繁殖生態の調査と血縁解析を行い、社会構造を解明する。さらに、魚類では世界初となる古典的一妻多夫のJulidochromis marlieriについて、操作実験、親子判定や血縁推定を大規模に進める。 (2)認知については2つの研究を本格的に実施する。1つ目は、親子間の音声シグナルである。口内保育種Xenotilapia flavipinnisについて、親が子に発する音を水中マイクで記録し、解析する。録音声を水中で再生し、音だけで子は反応するのか、親の姿と音で反応するのかなど、様々な実験を行い、魚類初となる親子間の音声シグナルを解明する。2つ目は国際共同研究者と共同で行うN. pulcherの「顔認知」に基づく個体識別実験である。孵化した仔魚を単独飼育した場合と、親元で同居して飼育した場合に、顔認知の発達に与える影響を調べる。 (3)現在、予定していたJ. transcriptusとN. pulcherの脳地図を作成中である。その後、協同繁殖する場合とそうでない場合に、社会行動に関係するバソトシンやイソトシンの産生ニューロンや各受容体の脳内分布の違いを特定し、脳内神経活動も定量化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本申請課題では、アフリカ・タンガニイカ湖での野外調査とドイツ・マックスプランク研究所でAlex Jordan博士との共同で研究を行うことを研究している。2020年度、2021年度ともに新型コロナウィルスのため、どちらも実現できなかったので、助成金を備品や消耗品、英文校閲などに使用し、渡航費を繰り越した。2022年度に、タンガニイカ湖での調査とマックスプランク研究所での共同研究を計画しており、これらに繰り越した助成金を使用する。
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