研究課題/領域番号 |
20KK0170
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
和氣 弘明 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (90455220)
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研究分担者 |
大野 伸彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (10432155)
加藤 大輔 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (10712292)
竹田 育子 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (30746300)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | ミクログリア / シナプス / 異種感覚の可塑性 |
研究実績の概要 |
認知機能・学習・情動などの高次脳機能に障害を呈する発達障害・精神疾患の病態を理解することは喫緊の課題である。近年発達した光学技術によってグリア細胞の新しい生理機能の理解が得られ、高次脳機能とその病態の理解にはグリア細胞は不可欠であるという共通認識が広がりつつある。本研究では中枢神経系免疫細胞であるミクログリアに着目し、そのシナプスや血管などの脳環境に対する生理機能を明らかにする。さらに遺伝的・環境要因によるミクログリア変容のメカニズム及びその結果として引き起こされる異常による病態を精神疾患と組み合わせて解き明かすことを目的とした。ミクログリアのシナプス活動に対する修飾メカニズムを検証するために、生体イメージングとトランスクリプトーム解析を用いて、シナプスから放出されるATPにミクログリアの突起上のP2YR12を介した応答があることでシナプスに誘引され、その活動を修飾する。てんかんなどの過剰興奮時にはミクログリアがシナプスに誘引されることによってシナプス活動を抑制し、神経保護的作用を示すことを明らかにした。さらにこれらのシナプスの領域間への作用を検証するために、異種感覚の可塑性に着目し、視覚遮断マウスにおける第一次感覚野(S1)から高次視覚野(V2)への投射に着目した。髭に応答するS1軸索はV2においても髭に同期した活動を示し、視覚遮断マウスにおいては複雑な物体提示に対するV2神経細胞の活動上昇が認められ、ミクログリアを遺伝学的に除去することでこの活動上昇が損なわれることがわかった。ミクログリアを解析することで、ミクログリアがV2領域興奮性神経細胞体に存在する抑制性シナプス終末を除去することで、この興奮性上昇が認められ、これが異種感覚領域を用いた学習の向上に寄与することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
国際共同研究の成果を上げることができ、さらに異種感覚の可塑性に関する研究も予想以上に進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
感覚除去によってシナプスが除去される過程にミクログリアが関与することも明らかにされてきた。このような感覚除去では異種感覚の可塑性が生じる。また臨床的に先天的盲のヒトは統合失調症発症に対する抵抗性があり、成熟後に視覚が喪失したヒトは幻覚を経験するリスク及び統合失調症を発症するリスクが有意に高いことが知られている。しかしながら、シナプスレベル(ミクロ)から神経回路レベル(マクロ)までの現象を分子から回路までこの感覚除去におけるミクログリアの神経回路に対する役割及びその病態への関与を階層的に検証した研究は未だない。 1.感覚除去(視覚遮断)に対する脳領域別ミクログリアのシナプスに対する役割を明らかにする。 2.正常群および統合失調症モデルマウスにおける発達の異なる段階および成熟期における感覚遮断のミクログリアに対する作用を明らかにし、その結果としてのシナプスの変化を抽出する。 本年度はミクログリアの異種感覚に対する可塑的変化の分子メカニズムを視覚遮断マウスの脳からミクログリア、アストロサイト、神経細胞を抽出し、Dr. Anne Schaeferとともにそのトランスクリプトーム解析を進めることで全容を明らかにし、さらに統合失調症のモデルで視覚遮断を作成することで、統合失調症の発祥の抵抗性を有する分子メカニズムの検索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延と研究遂行の制限に伴い、ウルトラミクロトームを用いた試料の調整および電子顕微鏡による観察とデータ取得、高性能コンピューターを用いたデータ解析(画像抽出・3次元再構築)などを計画通りに遂行することが困難になった。 次年度は、今年度行えなかった観察用の試料の準備を進めると同時に、連続電顕画像取得とデータ解析を行う。
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