• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2023 年度 実施状況報告書

がん細胞のBACH1依存性を活用した新規治療戦略の開発

研究課題

研究課題/領域番号 20KK0176
研究機関東北大学

研究代表者

五十嵐 和彦  東北大学, 医学系研究科, 教授 (00250738)

研究分担者 島 弘季  東北大学, 医学系研究科, 助手 (00448268) [辞退]
落合 恭子  東北大学, 医学系研究科, 助教 (10455785)
西澤 弘成  東北大学, 医学系研究科, 学術研究員 (30846655)
松本 光代  東北大学, 医学系研究科, 大学院非常勤講師 (80400448) [辞退]
研究期間 (年度) 2020-10-27 – 2025-03-31
キーワード膵癌 / 乳癌 / 頭頸部癌 / 転写因子 / エピジェネティクス
研究実績の概要

インドTapas Kundu教授らとの共同研究ではPC4による核小体クロマチン制御機構についてさらに研究を進めた。前年度までにPC4ノックアウトB細胞では核小体周辺ヘテロクロマチンが減少し、Histone H3 K9トリメチル化(H3K9me3)も減少すること、しかし、核内全体のH3K9me3量は大きな変化を示さないことを見いだしていた。これと関連する知見について論文作成を進めるため、五十嵐がインドを訪問し討論と実験を実施した。得られた結果を論文にまとめ、ほぼ完成したので共著者への回覧を経て近日中に投稿予定となっている。さらにこのヘテロクロマチン変化の生理的病理的意義を探るために、PC4ノックアウトマウスにおけるB細胞の変化を詳細に調べた。PC4ノックアウトにより老化様B細胞がより早期に出現することを見いだした。このクロマチン構造変化の詳細を調べるために、ATACシークエンスなどを実施しつつある。
米国Marsha Rosner教授らとの共同研究では、乳癌および膵臓癌において転移促進や対酸素環境適応に関わることが予想されるBACH1標的遺伝子群を複数同定し、昨年に引き続きそれらの機能解析を進めた。さらに頭頸部癌についてもBACH1の機能を調べた。膵臓癌ではBACH1により上皮間葉転換EMTが生じ転移が促進し、BACH1ノックダウンによりEMTが逆転しMETが生じる。BACH1ノックダウンによるMETでは、鉄量の低下が生じること、鉄低下が細胞接着因子発現上昇を引き起こすことを、BACH1標的遺伝子のダブルノックダウンなどによりほぼ確定することができた。乳癌ではこれまで全く注目されていなかった新規BACH1標的遺伝子を見いだし、その機能評価と転移への関係を調べた。頭頸部癌では、BACH1による細胞内遊離鉄濃度上昇が癌細胞の増殖にほぼ必須であることを見いだした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

PC4によるヘテロクロマチン形成促進が、核小体機能と密接に関連するという当初予想していなかった新たなメカニズムを発見することができた。さらに、その生物学的意義として、抗体産生を担うB細胞の変性(老化様変化)をおさえるというこれまた予想外な知見を得ることができた。酵母ではヘテロクロマチンの形成不全が老化を引き起こすことが証明され、その制御因子の高等生物ホモログが老化過程に関わることが報告されているものの、ヘテロクロマチン形成不全が実際に老化に関わるのか、いまだ混沌としている。PC4はこれまで老化との関係性はほとんど知られていなかった。しかし、共同研究者のTapas Kundu教授らはPC4がオートファジーを制御することを見いだしており、一方、オートファジー不全は老化に関わることが報告されていることから、PC4が老化に関わる可能性は本研究でも注目してきた。実際に、PC4がヘテロクロマチン維持に必須であることが判明し、しかも個体レベルでもB細胞の老化抑制に必須であることが判明したことから、老化とクロマチン制御を結ぶ重要な因子としてのPC4の位置づけが明確になりつつある。
一方、BACH1によるがん悪性化機構について、乳癌、膵癌、頭頸部癌を比較しつつ研究を進めたことで、BACH1下流遺伝子の癌種特異性と共通性に関する理解が大いに進んだ。特に、膵臓癌および頭頸部癌で鉄代謝変動の重要性が確立しつつあり、これを乳癌でも検証していくことで、他の癌研究とは一線を画するオリジナリティーの高い研究となっていくことが期待される。

今後の研究の推進方策

1. PC4による核小体制御に関する論文を投稿し、必要な追加実験を実施する。
2. PC4ノックアウトマウスのB細胞について、遺伝子発現変動、クロマチン開放領域マッピング(ATACシークエンス)のデータを統合解析することで、核小体に含まれるリボソーム遺伝子の構造変化、核小体周辺に位置することが報告されているヘテロクロマチン構造変化、発現変動遺伝子群のヘテロクロマチン構造変化などの関係性を解明する。また、これら変化が通常加齢マウスにおけるB細胞老化を反映するのか、加齢マウスを使って調べる。
3. 乳癌の解析から見いだした新規標的遺伝子について、in situ transcriptomeなどの手法を組み合わせてさらに機能解析を進めるとともに、膵臓癌、頭頸部癌についても関与の有無を検討する。低酸素応答への関与を特に注目して検討する。
4. 膵臓癌と頭頸部癌では鉄代謝がBACH1の重要な標的となっていることを見いだした。一方、乳癌と鉄の関係はほとんど報告もなく、私達もてをつけてこなかった。そこで、BACH1ノックダウン乳癌細胞で鉄代謝が変動するかどうかを調べ、変動する場合(予想では利用可能鉄の低下)、それに応じた変化、例えばミトコンドリア電子伝達系やリソソームなどが障害されるかどうかを調べて行く。
5.  膵臓癌と頭頸部癌では鉄代謝については、ICP-MS法を用いることでBACH1ノックダウンで生じる鉄変化を絶対定量する。総鉄量が変化しない場合でも利用可能鉄が変化する、例えばリソソームに鉄が蓄積する可能性なども考えられるので、リソソームやミトコンドリアを単離して鉄を定量する実験なども必要に応じて行う。さらに鉄の変化が低酸素応答を誘発する可能性も調べる。

次年度使用額が生じた理由

研究で得られた成果を英文原著論文として投稿したところ、その審査と論文改定に時間がかかり受理が次年度に持ち越しとなる見通しとなったことから約45万円を次年度に繰り越すこととした。来年度、当該論文が受理された場合にはそのオンライン掲載料として執行する予定である。万が一当該論文が受理されなかった場合には、現在準備中の他の論文の刊行費用として執行することとする。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 備考 (2件)

  • [国際共同研究] シカゴ大学/National Institute of Health(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      シカゴ大学/National Institute of Health
  • [国際共同研究] Jawaharlal Nehru Center for ASR(インド)

    • 国名
      インド
    • 外国機関名
      Jawaharlal Nehru Center for ASR
  • [雑誌論文] TANK Binding Kinase 1 Promotes BACH1 Degradation through Both Phosphorylation-Dependent and -Independent Mechanisms without Relying on Heme and FBXO222024

    • 著者名/発表者名
      Liu Liang、Matsumoto Mitsuyo、Watanabe-Matsui Miki、Nakagawa Tadashi、Nagasawa Yuko、Pang Jingyao、Callens Bert K. K.、Muto Akihiko、Ochiai Kyoko、Takekawa Hirotaka、Alam Mahabub、Nishizawa Hironari、Shirouzu Mikako、Shima Hiroki、Nakayama Keiko、Igarashi Kazuhiko
    • 雑誌名

      International Journal of Molecular Sciences

      巻: 25 ページ: 4141~4141

    • DOI

      10.3390/ijms25084141

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] BACH1 promotes tissue necrosis and Mycobacterium tuberculosis susceptibility2023

    • 著者名/発表者名
      Amaral Eduardo P.、Igarashi Kazuhiko、Scriba Thomas、Mayer-Barber Katrin D.、Andrade Bruno B.、Sher Alan、他20名
    • 雑誌名

      Nature Microbiology

      巻: 9 ページ: 120~135

    • DOI

      10.1038/s41564-023-01523-7

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Ferroptosis model system by the re-expression of BACH12023

    • 著者名/発表者名
      Irikura Riko、Nishizawa Hironari、Nakajima Kazuma、Yamanaka Mie、Chen Guan、Tanaka Kozo、Onodera Masafumi、Matsumoto Mitsuyo、Igarashi Kazuhiko
    • 雑誌名

      The Journal of Biochemistry

      巻: 174 ページ: 239~252

    • DOI

      10.1093/jb/mvad036

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 鉄代謝の制御と病態に関する研究動向2023

    • 著者名/発表者名
      五十嵐和彦、諸石寿朗
    • 学会等名
      第96回日本生化学会大会
    • 招待講演
  • [学会発表] 鉄は老化もつかさどる!!  生体の抗老化機構としてのフェロトーシス2023

    • 著者名/発表者名
      西澤弘成
    • 学会等名
      第96回日本生化学会大会
    • 招待講演
  • [学会発表] B細胞におけるBACH転写因子の量比による転写調節機構の解明2023

    • 著者名/発表者名
      倉澤岳志、 武藤哲彦、 松本光代、 落合恭子、 村山 和隆、 五十嵐和彦
    • 学会等名
      第96回日本生化学会大会
  • [学会発表] Metabolic Regulation of Erythropoiesis2023

    • 著者名/発表者名
      Kazuhiko Igarashi, Hiroki Kato
    • 学会等名
      8th Meeting of the Asian Forum for Chromosome and Chromatin Biology
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] 東北大学大学院医学系研究科・生物化学分野ホームページ

    • URL

      https://www.biochem.med.tohoku.ac.jp

  • [備考] Biochem Med Tohoku

    • URL

      https://www.youtube.com/@BiochemMedTohoku

URL: 

公開日: 2024-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi