研究課題
睡眠・覚醒や体温調節など、ほぼすべての生理機能には24時間を1サイクルとする “概日リズム”が存在し、“概日時計”がその時間的調節を担う。我々の身体を構成する すべての細胞に、概日時計は備わり、時計遺伝子の転写・翻訳を介したフィードバックループがその中心的役割を示す。概日時計の中でも、中枢時計である「視交叉上核」はペースメーカーとして機能し、睡眠・覚醒のリズムを調節する。近年の光遺伝学の技術開発により、様々な生命現象を調節する神経回路が同定されてきている。哺乳類の睡眠研究においても、実験室の飼育環境下における睡眠・覚醒調節に関わる神経細胞が同定されてきた。一方、自然界における動物の睡眠研究はほとんどなされていない。しかし、最近になって自然界における睡眠・覚醒パターンが、実験室の結果とは大きく異なる事が示唆されてきた。国際生物学賞を受賞したDr. S. Daan(故)は、自然条件下(野外)でマウスを飼育すると、夜行性から昼行性にシフトする事を発見した。本研究では、自然環境下における動物行動の調節を担う神経メカニズムの解明を行う。2020年に開発した沖縄産ホタル発光タンパク質を用いたカルシウムプローブ(Okiluc-CaM)を用い、非侵襲神経活動計測システムの構築を行った。Okiluc-CaMをマウス線条体に発現させ、頭部固定マウスの頭部から発光シグナルが計測可能かどうかを検証した。これまでの所、弱いながらも生物発光シグナルが非侵襲的に計測可能であることを確認している。自然環境下における動物行動の調節メカニズムを明らかにするため、共同研究先への渡航を検討したが、今年度もコロナウイルスの影響で渡航ができなかった。そのため、実験の方針を一部変更した。渡航予定先の共同研究者が開発した、work-for-foodシステムを立ち上げた。
2: おおむね順調に進展している
新規発光cAMPプローブの開発を進め、神経細胞からのcAMPのリアルタイム計測が可能となった。このプローブを用い、概日時計中枢におけるcAMPの機能を明らかにし、その研究成果がScience Advances誌に掲載する事が出来たこと (Ono et al., 2023 Science Advances)。自然環境下を模倣可能なシステム(work-for-woodシステム)を立ち上げることができたこと。これにより、動物行動を調節する神経メカニズムの解明が可能となった。
次年度は、自然環境を模倣したシステムを用い、マウスの行動を調節する神経メカニズムを明らかにする。神経活動や時計遺伝子発現の網羅的計測を行い、昼行性・夜行性行動調節に関与する候補脳領域を同定する。具体的には、神経活動マーカーであるcfos発現や、時計遺伝子Per2またはBmal1の発現リズムをすべての脳領域で網羅的に計測する。さらにsingle cell RNA seqを用い、昼行性・夜行性行動調節に関与する分子の同定を試みる。その後得られた分子の操作を行い、昼行性・夜行性行動を調節し因果関係を明らかにしていく。
コロナウイルスにより渡航のめどがたたず、当初の計画通りの研究が予定通りに進まなかったため次年度使用が生じた。しかし、その代替案を用いうまく進めることができる予定であり、全体を通して研究に大きな遅れは生じない予定である。具体的には、今年度開発を進めたwork-for-foodシステムを用い、自然環境条件を模倣し、その際の神経回路編成メカニズムに迫る。それに必要なシステムやマウスの行動計測システムをそろえ、本研究の目的を達成する。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (2件)
Science Advances
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https://daiono14.wixsite.com/circadianrhythm
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